画期的な多言語システムを開発し、多くの大企業からベンチャー企業に至るまでSaaSを提供しているWOVN.io。翻訳を始めとしたWEBの多言語化に留まらず、多言語「体験」 = Multilingual Experience(以下「MX」)の提供にこだわる理由とは。
「外国人と共に歩む未来のビジネス」をテーマに開催されたGLOBALIZED 2019では、「Multilingual Experience 外国人戦略のためのウェブ多言語化」と題し、Wovn Technologies 株式会社(以下「WOVN.io」)の上森が講演。本稿ではそのダイジェストをお届けします。
Multilingual Experience・外国人の多言語体験を最適化
WOVN.ioは、「世界中の人が、すべてのデータに、母国語でアクセスできるようにする」というミッションを掲げ、WEBを多言語化するSaaSを開発する企業です。
最近WOVN.ioの社内で話題に上るトピックは「Multilingual Experience・外国人の多言語体験の最適化」。例えば海外に行ったときにやたらと日本語で対応されると、期待していた現地での体験が損なわれてしまうと感じませんか? 何でも単純に翻訳するのではなく「多言語体験を最適化」しなくてはいけません。この課題にソフトウェアと翻訳で応えているのが、WOVN.ioなのです。
昨今、インバウンド・越境EC・在留外国人・海外展開という4つのマーケットにおいて、WEB多言語化のニーズが上昇。それぞれのマーケットのWEBサイトには、システムの管理画面に当たる「Cloud/Saas」、商品やサービスを展開する「EC&Media」、企業の公式サイト「Corporate」の3種類があり、WOVN.ioはそれぞれの分野で国内トップ企業のローカライズを支援しています。
外国人消費は個人消費純増の10年分
日本はいくつも社会問題を抱えています。そのひとつが少子高齢化です。この先15年で1500万人の生産年齢人口が減少。現在は4人に1人の65歳以上が、15年後には3人に1人になると言われています。
先進国においてGDPは、生産年齢人口に比例します。働く人が減ると必ずGDPも下がってしまうんです。かつ人口の統計データは高確率で当たる。この先15年~20年で1,500万人の働き手がいなくなること、人口の減少とともにGDPも減ることは間違いありません。このまま行くと日本経済は確実にシュリンクしていきます。(上森、以下同様)
もうひとつの課題は、製造業の限界です。日本は1970年ごろからものづくり企業・輸入加工業で成長しましたが、近年は工場を自社で持たず生産を外注する「ファブレス」な大企業も増加。例えばパナソニックも、ファブレス企業への転換を明言しています。
日本の製造業の長所は、高品質で長期間使えるコストパフォーマンスの良い製品を作れることでしたが、それだけで収益を獲得していくのは難しい時代になってきました。自社ではマーケティングやデザインに注力し、生産はアウトソースする時代が来ているのです。
少子高齢化と製造業の衰退。これらの解決策として期待されているのが、外国人労働者の受け入れ増加と、高度なサービス産業としてのインバウンド産業です。
現在、国内個人消費の年間純増額が約1兆円なのに対し、在留外国人消費額とインバウンド消費額はそれぞれ5兆円ほど。個人の消費増加を考えるよりも、外国人による消費額に対処したほうが、マクロ的には大きなインパクトがあるのです。
また在留外国人消費額の内訳には小売、通信、交通などの消費が含まれています。言語の問題さえクリアすれば日本人と同じマーケティング手法を使えるので、企業としても取り組みやすい分野のはずです。
他方のインバウンド産業に関しては現在、訪日外国人が使う単価を上げ、訪日する人数も増やそうという戦略が採られています。
これまで日本が提供してきた商品は、コストパフォーマンスのよいHONDAカブのような「文明商品」でした。しかしこれからは、フランスのエルメスのように付加価値をつけて売る「文化商品」が主流になるでしょう。
しかし文化商品に関するプロフェッショナルは日本には少ない。なぜなら日本はずっと文明商品を売ってきたから。これからは「ラグジュアリーオプション」、付加価値を付けて販売する、高度なサービス提供に真剣に向き合う必要があります。
多言語化するサイトの属性をチェック
WOVN.ioがローカライズしている分野は消費者ブランドやエンターテイメント、小売業など多岐に渡ります。それぞれの分野に特有の論点があるため、別個に外国人戦略を考える必要があります。
またそれぞれの業界・企業はWEBサイトを保有していますが、当該WEBサイトがどのような特性をもっているか確かめるフレームワークをWOVN.ioは提供。動的サイトか静的サイトか、翻訳ボリュームが多いか少ないかで区分しマトリックスにプロット、大きく(1つは該当がないため)3種類のサイトが存在します。
例えば、コーポレートサイトは静的サイトかつ翻訳ボリュームが比較的少ない方に分類されます。動的サイトであるSaaSは翻訳量が比較的少ないですが、同じ動的サイトでもECサイトやメディアは翻訳ボリュームがとても大きい。WEBサイトのパターンによって多言語化の方法を変える必要があるのは、説明するまでもありません。
講演では、業界やWEBサイトの種類毎に、多言語化の事例が紹介されました。
某大手銀行では、数百の支店で5ヵ国語による口座開設に対応しています。とはいっても、窓口のすべてにタイ人や中国人など多言語スタッフを配置することはできないため、今まで窓口で行っていたオペレーションの大半をWEBで済ませ、書類を持って窓口へ行けば口座開設できるようにしています。
某外資系大手カードブランドは日本法人が運営しているため、従来は管理画面も日本語のみで提供していました。しかしある外国人会員の「日本語が読めないので対応してほしい」という声を受け、管理画面を英語でも閲覧できるように。この会員は高所得者だったため、結果として大きな機会損失を避けることに繋がりました。
WOVN.ioが提供する多言語化の仕組み
WOVN.ioは、元サイトの中からテキスト情報だけを吸い上げ、翻訳してサイトに戻すという仕組みです。HTMLの中の日本語部分だけをすくい上げて英語にするので、個別にHTMLを作らなくても英語化できるという特徴があります。当然、英語だけでなく中国語や他の言語にも対応可能です。
講演では実際にWOVN.ioのサイトにログインして、翻訳のデモンストレーションを実施。テキスト情報の翻訳以外にも、フォントサイズの調整やスマホからの見え方の確認など、HTML以外のCSSやJavascriptの変更にも対応できるという機能もパフォーマンスしました。
WEB多言語化には、計画・実装・運用という3つのステップが必要ですが、日本企業にはそれぞれのステップで課題があります。最初の「計画」、つまり企画戦略立案がかなり重要にも関わらず、日本全体としてノウハウが溜まっていない。「実装」はSIerに開発を丸投げ。人材不足により「運用」がうまくいってないケースも多いそうです。
外国人にとってWEBサイトは、単に翻訳されていればいいというわけではありません。では何を考慮すればいいのか。それを考えるキーワードが「MX・多言語体験」です。
MXを考える上では、翻訳・UIUX・通信・データ・運用という5つの重要領域を基準としたフレームワークが有用というお話もしました。
WEBの多言語化は、長い時間と多額の費用がかかるシステム開発と複雑な運用が大きな課題。言語ごとに開発すると、言語を増やせば増やすほど開発費が増え、その運用も複雑化します。また、ルールや仕組みがない状態で複数の利害関係者がいるような組織体制では、小手先で英語ページだけ作ってもユーザーに有用な情報提供はできません。
従来は各社が約5000万円のコストと、9ヶ月という長い期間をかけて多言語システムを開発していました。
しかし技術的なブレイクスルーが起き、個社ごとにシステムを開発する必要がなく、どんなサイトも会社も同一に使えるシステムを開発する環境が整ってきました。それを多言語化に適用したのがWOVN.ioです。
テクノロジーを使って多言語化の未来をつくる
翻訳方法には大きく、機械翻訳と人力翻訳の2種類があります。機械翻訳と聞くと最近の技術のようですが、実は60~70年前から存在している翻訳方法です。当初はルールを決めて対訳を用意し、そのルールに該当したら翻訳するという「ルールベース」の機械翻訳が長く利用されていましたが、次第に統計データに基づいて翻訳する、「統計ベース」が主流となりました。
そして2016年、Googleがニューラルネットワークという、AIを使った機械翻訳をリリースし、翻訳業界は劇的に変化します。ニューラルネットワーク翻訳は従来の方法よりも圧倒的に精度が高いのです。
しかしその普及には、一定のハードルがあるのも事実。というのも、ニューラルネットワーク翻訳は、データベースや統計ベースの翻訳と違い、言語学に基づいていない結果が出ることがあるから。なぜこの結果になるのか、その原因が不明なのです。
WOVN.ioの役割は、ニューラルネットワーク翻訳といかに付き合っていくかを考えることです。今後機械翻訳の技術はさらに向上していくでしょう。そうすると翻訳コストは次第に下がっていく。インターネット上のコンテンツが大幅に増えたとしても、今よりも大量に安く翻訳できる未来になっていくのです。現在人的・金銭的コストがかかっている作業を、テクノロジーを使って、安価に、大量に、正確に解決できるようにしていく役割をWOVN.ioは担っていきます。
どんなに翻訳が優れたコンテンツが作れても、届けたい人に届かなくては意味がありません。そのため、検索エンジンへの対応もMXには必須です。
日本で頻繁に利用される検索エンジンは、GoogleやYahoo!。一方で韓国の約半数はNEVER、ロシアはYandexという検索エンジンが利用されます。そのため韓国語やロシア語のコンテンツは、それぞれの検索エンジンから検索されたときの表示もしっかり確認する必要があるでしょう。
最後に、ローカライズ予算を確保する方法、ローカライズするための予算は、設備投資と運用コストのどちらにするのがいいかという問いが投げかけられました。その点、設備投資として稟議を通そうとすると承認フローもかなり厳しいものになりがちなので、毎月・毎年更新していく運用コストにするのがいいとWOVN.ioでは考えています。
予算の種類も、システム開発、マーケティング、翻訳などがあります。マーケティング予算として進めるクライアントも多いですが、そうすると短期的に結果を出す必要があるので、足の長い施策になる場合にはうまくいきません。また翻訳予算は、これまでの使っていた目的の翻訳予算以外はほぼないので、ここを変えに行くのは難しい。
それに対してシステム開発予算として取るとだいたい2~3年のプランになるので、より柔軟なローカライズ計画が立てられるケースが多い。よって「多言語化は開発予算を使って、中期的に成果を出そう」というのが、WOVN.ioの考え方です。
翻訳にとどまらず、外国人の多言語体験を最適化していこうというのが、WOVN.ioの掲げるビジョン。もし開発者や翻訳者がいなくても、様々な企業や外国に提供できるように、インターネット文化をローカライズしていきたい。今後ローカライズを検討される企業は、ぜひ一度WOVN.ioをチェックしてみてください。
(執筆:金指 歩、写真:taisho)
GLOBALIZED2019の講演レポートは、本記事をもって終了となります。
今後も様々なコンテンツを配信してまいりますので、
是非ご覧いただければと思います。
過去の各セッションレポートは、「WOVN.io BLOG」にてご覧いただけます。
こちらも是非ご覧ください。
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