デジタル時代ではルールの考え方も作り方も変わる。政府が考える日本の DX とは|経産省津脇氏|GLOBALIZED 2020


Wovn Technologies株式会社(以下「WOVN」)が開催する、「テクノロジー」をテーマにした年次イベント「GLOBALIZED」。2020年は「テクノロジーで解決する、日本が直面する4つの『限界』」をテーマに7つのセッションをお届けしました。

Keynote3 「日本の課題と DX がもたらす未来」に登壇したのは、経済産業省の津脇さんです。コロナがきっかけとなってデジタル化に関する議論が進んだ2020年。政府はデジタル庁の設置に動き、民間企業はアフターコロナも見据えた DX に取り組んでいますが、まだまだ官民には様々な課題が待ち構えています。例えば政府がデジタル時代に取り組まなければならない「ガバナンス・ギャップ」は、今までの「リアル・業種」という枠組みから「サイバー空間・機能ベース」への転換を訴えるものです。

官民がこれから取り組む DX の課題とは。場当たり的な対応ではなく、根本的に考え方を変えなければならないことはなんなのか。政府の立場からはどのような未来を描こうとしているのか。津脇氏に語っていただきました。

【登壇者】
経済産業省 大臣官房企画官(デジタル戦略担当) 内閣官房 IT室 / デジタル改革関連法案準備室 企画官 津脇 慈子

2004年、東京大学法学部卒業。同年に経済産業省入省(通商政策局通商機構部)。2010年から米コロンビア大学、英ケンブリッジ大学に留学。帰国後の2012年には金融庁へ出向(監督局保険課)。大臣官房政策審議室、商務情報政策局、中小企業庁経営支援部、商務サービスグループ政策企画委員、キャッシュレス推進室長を経て、現職。

「接触回避」から見る行動変容

経済産業省でデジタル戦略企画官、内閣官房でデジタル庁の立ち上げを担当しております津脇慈子です。本日は「日本の課題と DX がもたらす未来」というテーマで、お話させていただきます。

2020年はコロナの影響が甚大な年となりましたが、DX(デジタルトランスフォーメーション)という意味では、コロナ対策を経て様々な課題が官民で見えてきました。例えば行政では給付金申請に際してシステムの不整合、民間では押印手続きがテレワークの阻害要因となったのはご承知の通りです。以前からデジタル化は叫ばれていたものの、今回のコロナ対策で DX に対する抜本的な対策の必要性が改めて浮き彫りになっています。

ではポストコロナはどのような行動変容が起きるのか。最初のキーワードは「接触回避」です。

外出自粛の影響から、皆さんの自宅にいる時間が増えたため、動画配信や宅配サービスを使う方が増加しました。その結果リモートサービスや在宅サービスの普及が進んでいます。

(image: 津脇氏講演資料)

また接触回避という意味では、物流・交通機能の構造変化が生じる可能性が高まっています。今まで人手で対応していたラストワンマイル配送は無人化されていくでしょうし、交通機関についても個別交通へのニーズが高まっています。例えば、国内の自動車サブスクリプションへの問い合わせは5倍に増えたそうです。

然は然り乍ら(さはさりながら)、対面でなければならない場面もありますので、その際にはタッチレス・インターフェースレスなサービス提供が求められます。そういった意味では AI やロボット化の動きは加速するでしょう。特に対人のサービス業においては、ラストワンマイルでのロボット利用、店舗の無人化・セルフレジ化等が進む可能性が高いと考えられます。

また、居住・職務空間の再選択・再構築もされるでしょう。今まではオフィスや自宅が近接し集積しているメリットもありましたが、感染リスクの低減や価値観の変化、リモートワークの進展に伴って、都心ではなく郊外に住む方も出てきています。居住や働き方の面でも、新しいサービスや都市需要が出てくるのではと感じているところです。

総じてポストコロナの時代には、新しいサービスやモノに対する需要が増えるのだろうと考えられます。

こうした状況の中で、民間や政府による DX はどのように進めていくべきか。まずは民間からお話させていただきます。

レガシーシステムの刷新が必要な日本企業

民間による DX 推進のポイントは、サイバー空間とフィジカル空間の融合、即ち「Society 5.0」です。今までのようにリアル空間だけ・サイバー空間だけという考え方ではなく、フィジカル空間から取ったデータを AI のアルゴリズムで解析し、その結果をまたリアル空間に活用する、という流れが重要になってきます。特定の業種だけでなく、あらゆる企業についてこの Society 5.0を意識したデジタル経営改革が必要になってくるでしょう。

しかし経産省の調査によると、日本企業の8割は複雑化・ブラックボックス化した「レガシーシステム」を抱え、これが経営の足かせリスクになっています。これをしっかりと刷新して DX していかなければ、このままレガシーシステムと共に日本が沈んでしまいかねません。レガシーシステムを超えて新しい時代の Society 5.0向けの経営改革が出来るのか。これが日本の次の時代の重要なテーマになっています。これに関連して「リアルタイムな変化に即応可能な経営体制の確立」「情報やデータをリアルタイムに扱うシステムの構築」は不可欠でしょう。

先日、情報処理促進法が改正されました。特徴は DX 格付けによるインセンティブ強化、個別最適ではなく全体最適になるアーキテクチャの検討、そしてセキュリティの確保です。例えば民間が DX を進めるための参考指標として、「DX 推進指標」や「DX 銘柄」を選定しています。このようなインセンティブも用意することで、レガシーシステムを乗り越え、新しい時代に適応していく経営・システム体制を作り、DX を推進してほしいと考えております。

次に政府の DX についてです。

「リアル・業種」から「サイバー空間・機能ベース」へ転換を

政府の DX と言えば今はデジタル庁が話題ですが、根本的な問題として議論しなければいけないのは、「ガバナンス・ギャップ」です。

今までの政府は各省庁の考え方に沿って、各省庁が規制や許認可を実施してきました。ところがデジタル社会において従来のやり方を踏襲していては、法がビジネスモデルの変化に追い付かず①新たなビジネスモデルがもたらす不公正を規律できない ②イノベーティブなビジネスの登場が阻害されるというガバナンス・ギャップが生じてしまいます。

かといって新しいイノベーションが育つよう完全に自由にしてしまうと、新しいビジネスによって生まれた不公平・不公正を規律出来なくなりかねません。

この問題意識があり経産省は「カバナンス・イノベーション報告書」を公表しました。この報告書の特徴としては、従来の「リアル・業種」という枠組みから「サイバー空間・機能ベース」への転換を訴えています。

先程ご説明したように、今後はリアル空間とサイバー空間が一体化する Society 5.0が進んでいきます。そうなると、しっかりサイバー空間も意識して、業種ベースではなくファンクション・機能ベースで規制やルールを検討しなくてはなりません。またビジネスのスピードが増す中で、全てが法律でガバナンス出来るわけでもありません。そこで「アーキテクチャ」という考え方を用いていくというのが、ガバナンス面の大きな変化です。

次に、DX をすすめる上で欠かせないセキュリティのお話です。

日本のデータ活用方針はどうするか

今までサイバーセキュリティは、「ここだったら攻撃されるだろうな」という大企業の意識さえ高ければよかったのです。しかしながら昨今は、中小企業もサーバー攻撃を受けるようになってきています。しかも、サイバー攻撃の手法はどんどんと高度化していて、サイバーセキュリティの重要性は日々増すばかりです。

そこで経産省では、「サイバー・フィジカル・セキュリティ対策フレームワーク(CPSF)」を2019年に公表しました。「Society5.0」では、より柔軟で動的なサプライチェーンの構成が可能になる一方で、サイバー攻撃の起点の拡散、フィジカル空間への影響の増大という新たなリスクに直面しています。そのため CPSF において、Society5.0における新たなリスクに対応するセキュリティ対策の全体像を整理したのです。

最後に国際デジタルルールです。

データについての考え方は、国や地域によって異なっており、おおまかに次のようになっています。アメリカは「データ・フリー・フロー」、つまり国はデータを規制せずに、フリーにどんどん流れていくべきだという考え。EU は個人情報やプライバシーが極めて重要と思っていますので、EU と同レベルの法が出来ない限りはデータを流すべきではないという考え方です。中国は、国がデータをすべて囲い込もうとしています。

日本としては、一定程度信頼のおける中ではしっかりとデータが流れる経済圏を作っていくってことが重要だろうとの認識です。先進国でもプライバシーを巡り対立はあるものの、中国によるデータ囲い込み政策を牽制する意味でも、グローバルなデータ活用を広げる意味でも、日米欧の連携が重要になってくるでしょう。

変化を前提にしたアクションプランが必要に

ここまで政府としてデジタル分野で取り組んでいることを、簡単にご説明させていただきました。以上を踏まえ、私見を交えながら「新しい時代の3つの変化と可能性」として、総括させていただきます。

3つの変化の1つ目は、「ビジネス環境」です。近年は、先述した地政学的な話やナショナリズム、テクノロジー、自然災害など、不確実性が高まっています。こうした変化にどう対応するかが、これからのビジネス環境には求められてきます。

ビジネス環境の変化に伴い、当然ビジネスモデルも変化するでしょう。繰り返しになりますが、今までは業界ごとにビジネスが営まれていましたが、これからはリアルかサイバーかに関わらず、デジタル接点が重要になってきます。顧客や商品の接点を如何に多くもつのかが、ビジネス戦略上非常に重要になっているのです。

2つ目の変化は、「新産業創造」。OECD の調査によると、日本の製造業やサービス業は、新製品や新サービスを投入した企業の割合が先進国で最も低かったそうです。

日本のリソースは大企業に集まっています。じゃあ大企業がさらに活躍するべきなのか、中小企業やスタートアップと連携すべきなのかは議論の分かれるところだと思いますが、どちらにせよ我が国が保有するリソースをもっと上手く活用しなくてはならないという事実は変わらないでしょう。

また本講演の前に早稲田大学の入山先生が講演された際におっしゃっていましたが、これからの企業経営には、ある分野を深堀る「知の深化」よりも、知識の幅を広げる「知の探索」が重要になってきます。イノベーションを今後進めていくためには、リソースを知の探索の振り向けることが重要です。

最後の変化は「人」です。今日本ではどんどん生産年齢人口が減っています。今までは中々お金が集まりませんでしたが、今一番集めるのが大変なのは「人材」なのです。欲しい人材像もそれこそ DX 人材へと変わってきており、そのような人材は枯渇しています。これからどんどん人材採用が難しくなるでしょう。

また、今は人生100年時代と言われています。今までみたく、従業員が同じ組織にずっといるという時代ではなくなってきました。言うなれば、人によって人生のステップが異なるようになってきているのです。

こういう方々が共感できるようなコミュニティを作って、そこで新しいものをどんどん生み出していける組織・社会を作れるか否かが、新しい日本のデジタル社会における成長戦略上非常に重要になってきます。人も生き方も社会も組織も違う。この中でどうやって良い組織を作っていけるかという勝負になってきているのです。

また、色々なものの境目が曖昧になってきています。モノとサービス、リアルとサイバー、人間と AI、仕事と生活。しかもこれらは、どんどん変化することが前提になっています。

リアル、サイバーと分けること自体にあまり意味が無い時代になってくる中で、自社のサービスにどういう付加価値を付けていくのか、どういうビジョンを掲げるのかが重要になってきます。これは日本という国にとって、ピンチかもしれないですが、チャンスなのかもしれません。

今日本はデジタル社会を向かえ、コロナを契機に新しく変わろうとしています。必ずしも日本がどこの国よりも進んでいるわけではありませんが、この危機をチャンスにしていけるきっかけは沢山あります。上手く乗り越えて、新しい日本の幸せというのを官民で一緒に作っていけるようにしていきたいとおもいます。そのためには皆さんのご協力が不可欠です。今後の日本のためにも、是非よろしくお願いします。ご清聴ありがとうございました。

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