【Stripe】「インターネットのGDPを増やす」オンライン決済を34カ国で展開するローカライズ戦略


世界規模で10万以上の企業にオンライン決済サービスを提供しているStripe(ストライプ)。あらゆる国や地域でサービスを提供している彼らには、数々の実績や経験から裏打ちされた、独自のローカライズ戦略があります。

「外国人と共に歩む未来のビジネス」をテーマに開催されたGLOBALIZED 2019では、「オンライン決済サービス『Stripe』から学ぶ、グローバル企業のローカライズ戦略」と題し、ストライプジャパン株式会社 代表取締役のDaniel Heffernan(ダニエル・ヘフェルナン)氏が講演。WOVN.ioの取締役製品担当・Jeffrey Sandford氏との対談も行われました。本稿ではその模様をダイジェストでお届けします。

ストライプ社のミッションは「インターネットのGDPを増やす」

ストライプジャパンの親会社・ストライプ社は、世界34カ国でサービスを提供しており、年間の決済取扱高は数兆円に上ります。その決済インフラを支えているのは、世界15カ国・14拠点に点在する1850人の社員たち。ストライプ社のミッションについて、ヘフェルナン氏はこう語ります。

ストライプ社のミッションは、「インターネットのGDPを増やす」。具体的には、オンラインコマースの取扱高を伸ばすことです。世の中にはAmazonやUberなど、グローバルインフラがあるからこそ存在している企業がたくさんあります。

私たちはグローバル決済システムを普及させることで、そういった事業をさらに増やすことに貢献しているのです。

日本のオンラインコマースは、2005年に3.4兆円から、2017年には16.5兆円に急成長しました。どの国も急激な割合で伸びており、オンラインコマースは世界中で急伸しています。このような背景からストライプは、グローバルで決済できるサービスを生み出しました。

自社単独でオンライン決済を展開しようとすると、カード会社との加盟店契約や不正使用対策など、決済システムに関する手続きは膨大です。一つの国でようやく整備できたとしても、次の国にそのまま横展開はできず、また一から決済サービスを探して契約して、と各国ごとに何度も同じような作業を行う必要も。そこでストライプ社は世界中で決済システムを利用する会社の「統一された窓口」になるべく、サービスを提供しています。

例えばストライプのサービスの一つである「Stripe Atlas」。ストライプを通してアメリカの法人を設立でき、法人用の銀行口座とストライプアカウントが自動的に作成されます。これを利用することで、ストライプ社の拠点がない国でも、アメリカを拠点にして自社事業を海外展開できるようになります。

また同社には「JP_Stripes」というコミュニティがあり、ストライプのユーザーが自由に交流できるようになっています。事業アイデアの実現方法やビジネスのキャッシュフローに関する相談など、様々なことを相談できる場所として機能することで、ユーザー支援を果たしています。

グローバル決済・資金管理ネットワークの構築方法とは

さて、講演の次のテーマとしてヘフェルナン氏が挙げたのは、「グローバル決済&資金管理ネットワーク」でした。

ストライプでは、決済(資金が入ってくること)、出金(お金が出ていくこと)、送金(お金を移動できること)、この3つの要素を中心に、グローバル決済と資金管理ネットワークを構築しています。

例えば決済。日本での決済には、日本国内のカード決済を利用していますが、これを中国に展開しようとすると、Alipayなどの中国決済に自動で置き換わるようになっています。

また、CtoCのマーケットプレイスでは、購入者がアルゼンチン、商品提供者がドイツにいた場合、アルゼンチンの決済サービスにつながりつつ、ドイツで出金できる方法が必要。ストライプはこういった決済基盤をつくることにフォーカスしています。

経産省によれば、2018年の日本国内のEコマースの市場規模は18兆円程度で、EC化率は6.22%/年)。2010年の2.84%から毎年成長しており、これは世界中で同様の傾向です。

越境取引も伸びています。国内事業者のアメリカにいる消費者に対する売上は約8兆円で、2020年までに1.7倍になると言われています。ちなみに、中国は日本の倍ほどの比率でEコマース取引がされていますが、2020年までにはアメリカと同規模まで成長すると見られています。

日本のEのコマース市場規模は、世界第4位。中国とアメリカが圧倒的で、イギリス・日本・ドイツ・フランスと続きます。では、2021年になったらどのような変化があるのでしょうか? 実はランキングは変わらない。この6カ国がそのまま伸び続けると予測されているのです。

つまり日本のEコマース市場は、インドやインドネシアなどのアジア全体と比較しても、さらに大きく、今後も同様の規模感で成長していくということ。このような背景から、ストライプ社は日本市場をかなり重要視しているそうです。

ストライプ社のローカライズ戦略

ストライプ社が日本を含めて海外展開するときのポイントについて、5点が紹介されました。

①現地にエンジニアリングオフィス・エンジニアリングハブを置く
ストライプ社は元々シリコンバレーの会社で、エンジニア全員がサンフランシスコにいました。海外展開を始めた当初は、ストライプ社のエンジニアがパートナーやユーザーと直接話せない、現地の消費者の習慣や購入行動を見られないことで、上手く開発ができない面があったそう。

そこで去年、ダブリンにエンジニアリングオフィスを作る決意をして、今30人ほどのエンジニアがそこでヨーロッパの商品を作っています。現在は世界12拠点でエンジニアが活動しており、ユーザーに近い位置にエンジニアを置くことによって、サービスへの対応速度や商品の質を上げることに成功しました。

②24時間安定稼働
ストライプ社の決済システムは全世界で動いていることもあって、24時間稼働。少しでもストップするとビジネスに悪影響が出るため、システム稼働率については厳しく目を光らせているそうです。

③現地語でのサービス提供
例えばストライプは2018年に、ダッシュボードや管理画面、ユーザーへの自動送信メール等をすべて日本語に対応しています。例えば「返金」という重要なボタンが英語だったらユーザーは操作しづらい、というのが理由です。

一般的なWEBサイトでは、そのサイトを閲覧するときに国を選ぶと、その国の言語が自動的に選択されます。しかしストライプ上では、国と言語がそれぞれ選べるようになっています。この2つを分けたことは、同社のこだわりポイントだとヘフェルナン氏は語ります。

どういうことかと言うと、ストライプはインターナショナルなユーザーを想定しているのです。つまり、英語の方が得意だけど日本に住んでいるので、日本の料金で使える日本の機能を知りたい、でも言語は英語で読みたい、などのニーズに対応しているというわけです。


ちなみに、日本語へのローカライズは、完全に対応するまでに約3年もかかるほど大変だったそう。翻訳自体はできても、英語と日本語とは語順が全く違うので、システムのコードの書き換えが必要になることが、その理由です。

④現地でのネットワーク接続
ストライプ社のサービスが一般的なSaaSと少し違うのは、現地でネットワーク接続する必要があることです。

元々アメリカでリリースしたときは、アメリカの銀行が提供しているシステムに接続して、その先のユーザーやカード会社と通信できるようにしていました。では海外展開をするとどうなるか。例えば、カナダやイギリスなど5ヵ国で展開する場合は、5つの銀行システムと接続してから、カード会社などのシステムと通信をします。もしそこで、VISAが新しい機能を出した、となったら、同社のシステムは、5カ国それぞれに対して更新作業をする必要があり、かなりの負担になってしまいます。

その負担を避けるため、決済ネットワークに直結する仕様に変更。これは一大プロジェクトになったそうですが、これにより海外展開がかなりスムーズにできるようになったそうです。

ただ日本の金融システムは独特で、一部のシステムにはアメリカから扱えない。このように、各国の規制によっては現地で対応しなくてはならない事象が発生します。その際には総合的に判断し、ローカライズをしているとのことです。

⑤現地対応した決済手段
クレジットカードやその他カードの普及率は、各国で全く異なります。例えばドイツでは国際ブランドカードよりもローカルなカードがかなり利用されているので、現地の決済ネットワークに接続する必要があります。

海外展開のポイント、今後のグローバル戦略

海外展開する際に最も注意したいポイントとして、ヘフェルナン氏は「現地オフィスを置くこと」を挙げました。

現地にオフィスを置いて人を採用する。ここが一番コストがかかるので、慎重にやるべきでしょう。

展開する国を選定するとき、セールスサイクルとの関係がとても大事です。例えば、日本には四半期というセールスサイクルがありますが、四半期の経営目標を達成できずに撤退した外国企業を多く見てきました。

また、国内で社員やパートナーとの信頼関係を構築するのも大切。信頼関係があってこそ、商品化もうまくいくと思います。自分たちが現地に赴く覚悟をしているなら、サービス構築やサービス展開は自分たちの手で行い、商品の販売は現地パートナーに任せるのが一番いいのかなと感じます。

私たちが日本での展開に成功した理由は、三井住友カードさんがパートナーで入ってくれて資本関係・資本提携までできたことです。私たちが商品を作り、三井住友カードさんという、業界でも強い企業の名前で商品を販売できたのは力強かったですね。

世界のEコマース市場のTOP4は中国・米国・イギリス・日本ですが、ストライプは中国だけ進出していません。海外展開する際のポイントは、「規模」と「複雑さ」のバランスが取れている国を優先すること。中国はあまりにも複雑なので、展開を避けているそうです。

ストライプは近日中に、マレーシアなど2ヵ国にサービス展開する予定です。ですので現在はグローバルでの採用に力を入れ、優秀なエンジニアが揃ったグローバルな開発チームをつくることに注力しています。

もちろん、日本のユーザーにもさらに良いサービスを提供できるよう、力を入れていきますよ。

さらなる世界展開を視野に入れ、「インタ―ネットのGDPを増やす」というミッションを着実に達成しつつあるストライプ社。これから事業を海外展開させたいという方は、ストライプ社の発したメッセージを自社のローカライズ戦略に活用してみてはいかがでしょうか。

(執筆:金指歩、写真:taisho)

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