【カラオケの鉄人】再起と飛躍のために挑むインバウンド対応。観光客のニーズをITで解決


いまや世界共通語として認知される「カラオケ」は、安定した市場規模を維持するアミューズメント。独自のカラオケシステムを用い差別化を図ってきた「カラオケの鉄人」は、海外展開や国内店舗でのインバウンド対応にも積極的に取り組んでいます。

「外国人と共に歩む未来のビジネス」をテーマに開催されたGLOBALIZED 2019では、数多くの試行から見えたインバウンド対応のポイントについて、株式会社鉄人化計画の執行役員 システム開発本部長 兼 マーケティング事業本部長の梶山 尋史 氏が語りました。本稿では梶山氏の講演をダイジェストでお届けします。


株式会社 鉄人化計画 執行役員 システム開発本部 本部長 兼 マーケティング事業本部 本部長 梶山 尋史

上場後の鉄人化計画で現行システムの企画に携わり、独自のカラオケ配信システムや会員サービスを構築。その後別業界でさらに経営やマーケティングの経験を積んだのち、2018年に再び鉄人化計画に入社。マーケティング視点でシステム開発チームを率いながら、新規事業の創出にも力を入れる。ヘヴィメタル・ハードロックを愛するギタリストとしての顔も。

カラオケそのもののビジネスの変革を目指した「カラオケの鉄人」

「カラオケの鉄人」は1999年の創業以来、従来のカラオケシステムを顧客がより一層楽しめるものに改善すべく、さまざまな挑戦をしてきました。

例えば、複数メーカーの機種が扱う楽曲を一元管理する独自システムや、歌唱採点によるメンバーズポイントの加算がその最たるもの。アニメなどのIPとリアル店舗のコラボ企画にいち早く取り組んだのは、カラオケの鉄人でした。清算後のレシートに歌った曲の一覧をプリントするのも独自サービスのひとつです。

歌うことの本質的な喜びを追求する集中管理を目指し、カラオケの鉄人はカラオケというビジネスを変えるシステム構築を続けてきました。そのため、鉄人化計画を一言で伝えるならば「リアル店舗を持つIT企業」と言えるでしょう。

正社員129名、アルバイト1414名を擁し、首都圏に57店舗を展開する「カラ鉄」のターゲットは、もちろん日本人だけではありません(編注:数字は2019年6月時点のもの)。これまで海外展開に力を注いだ時期を経て、現在は海外観光客を対象としたインバウンド対応を進めています。

カラオケ市場の現状と「カラオケの鉄人」が目指した差別化

カラオケボックスの市場規模は3901億円で、カラオケボックスのルーム数や参加人口は2001年以降ほぼ横ばい。約20年間安定しているという事実は、エンターテインメントを扱う市場において特異な点です。

カラオケボックス市場には、楽曲配信を扱う端末メーカーと、それを配置して歌う空間を提供するオペレーターが存在。端末業界については、端末ごとの楽曲数増加に伴う寡占化が進み、現在はDAMとJOY SOUNDが主要メーカーとなっています。オペレーターの多くはチェーン店で展開しており、個人店は減少しています。

このようなカラオケボックス業界のなかで、カラオケの鉄人は自社開発した一元管理システムを導入することで差別化を図りました。

従来のカラオケは、オペレーターとメーカーの間に接続性がありません。メーカーごとに楽曲のオーダーや配信、歌曲採点を行うため、オペレーターは顧客データにアクセスできませんでした。

そこでカラオケの鉄人は、複数メーカーの楽曲にアクセスできる、一元管理型システムを自社で開発。これによりメーカーの違いによる楽曲の差を気にすることなく、全ての楽曲をどの個室でも楽しめるようになりました。また、オペレーターもユーザーの行動履歴を集積できるようになっています。

また付属のリモコンや、フロントのPOSも全てデータベースに連携する形で独自開発することで、各顧客のデータ(利用時間、楽曲オーダー履歴、飲食履歴など)をオペレーターである店舗が管理できるようにしたのです。

こうした自社開発システムの利用は、さまざまな相乗効果をもたらします。独自のPOSシステムは、各店舗のオペレーション変化に柔軟に対応でき、持続性と適応力双方に強みを持ちます。また、カラオケに使うリモコンは業界最速の検索速度を目指しており、お客様のスマホでも操作可能なアプリとも連携しています。

カラオケの鉄人が続けてきた、顧客満足度を追求したシステムへの飽くなき挑戦は、国内のカラオケ業界において先進的な事例を生み出した自負があります。しかし、海外展開が同様の成功をもたらしたかと言えば、必ずしもそうではありませんでした。

海外展開で見えた課題と、インバウンド対応への舵切り

「カラオケの鉄人」の初の海外進出は、2010年の台湾でした。当時人気のあったアニメコンテンツとのIPコラボレーションを主軸に、アニメカフェとカラオケが楽しめる店舗設計に。オープン当初こそ非常に人気を集めましたが、集客力においてコラボするIPの強さに依存するため、ボラティリティの高さがネックになっていました。

また台湾から東南アジア各国への展開も試みたのですが、現地のカラオケを運営する企業のほとんどが著作権処理をしていなかった点で、コスト的なハンディキャップを負うことに。同じカラオケでも、その運用方法や経営は国によって大きく違うことを痛感しました。

2012年に挑戦した韓国での店舗は、1年8カ月という短い期間で撤退を決断。韓国のカラオケは、酒類提供の有無によって2種類に分かれます。ファミリー向けのカジュアルな「ノレバン」は法令上酒類の提供が禁じられており、飲食による収益が大きい日本のカラオケのシステムをそのまま転用できません。そこで私たちは酒類を提供しながらファミリー層を狙う新形態を提案しましたが、文化の違いは大きく、そのスタイルが受け入れられることはありませんでした。

長期の黒字経営を実現したグアム店は、バーベキューなど複合的に楽しめる設備をそろえたことで高い人気を誇っていました。しかし、北朝鮮のミサイル事件以降日本人観光客が激減し赤字に転落。2018年に撤退を余儀なくされました。

いずれも文化や税制の違いによる経営困難が撤退の要因となっておりますが、特に意識せざるを得なかったのは各国の「カラオケ」に対する定義の違いです。カラオケの認知が上がっているのは事実ですが、それがどんな娯楽なのかは各国によって異なることを学びました。

欧米の場合、カラオケと言えばバーのような店のステージに立って歌うスタイルが主流で、歌唱力のある人たちが人前で歌を披露する印象が強い傾向があります。アメリカではアーティストとコラボレーションするカラオケアプリなど、個々人がアプリで楽しむカラオケも普及しつつあります。

多様化する国際的なカラオケのニーズ一つひとつに対応していくのは、極めて難しい。海外展開から得た学びをもとに、私たちは直近の目標としてインバウンド対応を優先することにしました。

インバウンド対応の鍵を握る、顧客ニーズに応じた自社開発システム

インバウンド対応の第一歩として行ったのは、リブランディング。馴染みのあった日本語の「カラオケの鉄人」から、外国人にも容易に読める「KARATEZ(カラテツ)」にロゴを刷新。コンセプトも「『記号化欲求』を持つ人たちが、何者かになれる場所」に変更しました。

記号化欲求とは、現代社会において特定の役割を持つのではなく、ゆるやかな存在でありたいと願う欲求を指したカラ鉄独自の言葉です。この欲求は近年大衆の間で増加していると言われており、カラオケの顧客層にも同様の傾向が見られます。

従来のカラオケは、誰もが主役になりたい欲求を持つことを前提とした設計になっていました。しかし私たちは主役というアイデンティティを強制しないカラオケを目指しています。脇役でもモブキャラ(編注:アニメなどにおいて「群衆」を指す)でも楽しめるカラオケを、KARATEZで提供していきたいのです。

インバウンド対応として、オフィシャルサイトの多言語対応化にはWOVN.ioを導入しています。KARATEZのウェブサイトには、以前から多くの海外アクセスがありました。これは人気アニメとのコラボ企画などに興味を持つ層が一定数いることに起因します。4カ国語対応を実現した現在、より一層の情報を届けられるようになりました。

リモコンナビの多言語化も進めているのですが、単なる翻訳では対応できない課題も見えてきました。例えば、楽曲のタイトルの翻訳は大きな壁です。冊子で楽曲タイトルを索引していた時代、洋楽の楽曲タイトルはカタカナで記されていました。原曲のタイトルを検索できるようにするためには、新たに外国語対応用のデータベースを作る必要があるのです。

また日本の楽曲を歌いたいけど、日本語での検索は難しいという観光客も増加しています。彼らは今、自らのスマートフォンを用いて母国語で検索をした後、ヒットした日本語をコピペして楽曲を検索しています。彼らのために、コピペに対応する検索機能を持ったスマホリモコンアプリのアップデートを進めているところです。

他にも例えば、リアルタイムで同時通訳が可能なアプリをフロントに導入し、スタッフの言語スキルを問わず、お客様の母国語でコミュニケーションができるようになっています。また、アプリに決済機能を追加し、フロントの会計処理にかかる人的コストを削減しました。

フリーWi-Fiの導入とスマホ充電器貸し出しの開始、荷物の預かりサービスなどは、いずれも海外観光客のニーズを満たすカラオケの副次的な利用法を意識したもの。繁華街にある個室という利点を生かし、様々なアプローチを進めています。

テクノロジーの力でオンリーワンのカラオケ体験を生み出す

色々なインバウンド対応してきましたが、結局重要だったのは表面的な対応をするのではなく、顧客ニーズの汲み取りや現場での持続可能な運用などの丁寧な検証でした。

ここに辿り着くまでに、失敗もたくさんしています。たとえばインバウンドメディアへクーポン出稿を実施したことがあるのですが、クーポンの回収率はゼロ。カラオケという場所は海外観光客にとってあくまで副次的な楽しみであり、主要な旅行の目的ではない。そのため集客には別のアプローチが必要ということを学びました。

正確な顧客ニーズを満たすカラオケの在り方を模索するとともに、海外観光客の受け入れに不安のない店舗システムの構築こそが、私たちの描くインバウンド対応の姿です。

その先に目指しているのは、ナンバーワンではなくオンリーワンのカラオケ。私たちはテクノロジーの力でカラオケ体験を刷新し、今後も世界中の人々が楽しめるカラオケを提供していきます。

 

(執筆:宿木 雪樹、写真:taisho)

 

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