2017年11月17日にSlack日本語版がリリースされました。
我々WOVN.ioチームも、社内のコミュニケーションツールとして英語版Slackを3年前から利用しているヘビーユーザーです。今回このSlackの日本語版について細部まで確認し、Slackローカライズの素晴らしいところ、疑問に思うところなど、我々の見解を紹介したいと思います。
ローカライズとは
ローカライズとはある国を対象に作られた製品・サービスを、他の国の言語に対応させることを指します。ソフトウェアの表示を、他の国の言語に翻訳することはもちろんですが、単なる翻訳ではなくその国の文化や法律・慣習に合わせた修正・変更も必須です。
Slackのローカライズは細やかで丁寧だ
先日行われた「TechCrunch Tokyo2017」でSlack Co-Founder/CTO Cal Henderson氏がセッションに登場し、日本語版のローンチまで1年程かかったと述べていました。満足できるものが出せるよう、ローカライズにはそれほどの時間と労力がかけられています。結果、日本語版のSlackは細部に至るまでしっかり「ローカライズ」されており、使いやすいものになっているのではないでしょうか。
ー機能のローカライズ
Slack日本語版にしかないオリジナル機能として「送信ボタン」があります。
英語版ではエンターキーを押すとメッセージが送信されますが、日本語版だとメッセージ入力後に送信ボタンを押す必要があります。この機能はHenderson氏曰く、日本人にあった使い方ができるように付与したとのこと。
しかし、これに違和感を覚えた日本人は多いかもしれません。なぜならば、日本で使われているチャットサービスでも、デバイスによって「送信ボタン」の有無が変わるからです。
例えば、LINEとFacebook Messengerでも、スマホアプリでは「送信ボタン」が有り、PCの場合は「送信ボタン」がありません。これはPCの場合、エンターキーが送信ボタンの役割を果たしているからです。
Slack英語版でもスマホアプリでは送信ボタン(send) が表示されます。
PCでSlackを利用している際、エンターキーでメッセージ送信されていることに対して日本人はどう思っているか。日本人は「慎重である」というイメージがあり、追加された機能かもしれません。
因みに「送信ボタン」は設定から解除することも可能です。
英語版では「送信ボタン」を表示するという機能はありません。日本だけの特別な機能ということがわかります。
ー言葉のローカライズ
Henderson氏はslackは「使っていて楽しいコミュニケーションツール」である、とも述べていました。日本語への翻訳だけを見てもSlackはお茶目な心を忘れていません。
いくつか紹介していきたいと思います。
①初期登録の設定画面
Slackをはじめる時、まず目にする登録画面。ここで英語が残ってしまっていたり、わかりにくい翻訳だった場合に「利用を辞める」という選択になりかねません。
入念な準備をしてきたというSlackですので、それぞれ綺麗に翻訳されていました。
一点気になったのは、会社の業種選択の1つ「消費財」という項目です。これが何の業種を指すのか日本人には難解です。英語では「Consumer goods」という項目になっており、これは衣服や食品などすぐに用いられ消費される品物を指します。確かに機械翻訳や辞書で調べると「消費財」になるのですが、ここでは「食品・飲料」と「アパレル」などの項目に分けるか「メーカー」などでまとめてしまうのが一般的でしょうか。
ドロップダウンリストの中身も、その国にあった項目を用意するとより親切です。
また、パスワードの安全性についての小さなコメントは英語のままになっています。これは日本人であっても簡単な英単語であること、ニュアンスがわかることから、翻訳しなかったのかもしれません。事実、日本人が見ても違和感がないことから、全てのテキストを翻訳する必要はないということも、念頭に置いておきましょう。
②ローディングメッセージ
Slackはローディングの時にメッセージが流れるのはご存知でしょうか。
「便利なテクニック」と「Slackからのメッセージ」の2つがランダムで表示されますが、「便利なテクニック」では同じ内容を日英それぞれで紹介し、「Slackからのメッセージ」ではそれぞれの文化を取り入れた日英異なる内容で発信されています。
<便利なテクニック>
英語では「Your friends at Slack」が日本語では「Slackのヒトコト」となっています。また文末の「Magic」は「おススメです!」と翻訳されています。「あなたのお友達のSlack」、「魔法!」のような訳文だったら我々日本人はどう感じるでしょうか?同じSlackの機能紹介文であっても、直訳ではなく細部まで日本人に違和感がないように文章が作られおり、さすがです。
<メッセージ>
メッセージには日本のことわざや、国民的アニメの一節を思わせる内容もあります。1つ1つがクスッとしてしまうような、そんな日本らしいメッセージになっています。
ー日本ー
- 笑う門には福きたる – これ、ほんと!
- ありがとう + 笑顔 = 最強
- 三人寄れば文殊の知恵
- いつもお疲れさまです
- 定期的にちょっと一息
- With Love, From San Francisco
- Have a nice day!
- Slackは用法用量を守って正しく使いましょう
- ペーパーレスで地球に優しく
- どこでもオフィス〜
- ありがとう+笑顔=最強
- 失敗なんて人生の味のモト
- できることからコツコツと
- Slackのご利用ありがとうございます!
- なんとかなるもんです
※2と11が重複していますが、こちらはSlackの設定ページからそのまま引用しています
対して英語はどうでしょうか?
アドバイスなど少し母親のようなメッセージが多いようです。
ー英語ー
- Always get plenty of sleep, if you can.
- Please consider the environment before printing this Slack.
- Please enjoy Slack responsibly.
- What good shall I do this day?
- Have a great day at work today.
- More “holy moly!”
- Sometimes you eat the bear and sometimes the bear, well, he eats you.
- You’re here! The day just got better.
- The mystery of life isn’t a problem to solve, but a reality to experience.
- Thank you for using Slack. We appreciate it!
- You look nice today.
- We’re all in this together.
- We like you.
- Be cool. But also be warm.
- Alright world, time to take you on!
③デフォルトチャンネル
Slackはチャンネルと呼ばれる部屋で、そのテーマごとの話題を話します。
デフォルトで用意されるチャンネルが「#general」と「#random」です。特に「#random」チャンネルの説明はビジネスコミュニケーションツールと言えども上手く脱力しているポイントになっています。
#general
全社的なアナウンスと業務関連の事項
目的:このチャンネルはワークスペース全体のコミュニケーションと社内アナウンス用です。
#random
仕事に関係ない雑談と給湯室でのおしゃべり
目的:仕事に関係ないペチャクチャ、ワイワイ、ざわざわといったチャンネルは、仕事に関係したチャンネルとは別にしておいたほうがいいです。
ーデザインのローカライズ
Slackはシンプルで使いやすいUIであることから、日本語版ローンチの前から日本人ユーザーが多くいました。直感的に操作できることから、言葉の壁をあまり感じることなく利用できるのだと思います。
今回のローカライズにおいて、デザインを大きく変えることはしなかったSlackですが、同じフォントを利用し「英語→半角」・「日本→全角」であるが故に日本語部分が大きく見えることが気になる程度でしょうか。しかし、これはUI/UXにおいて問題ないと言えるでしょう。
ーその他のローカライズ
プロダクトをローカライズして終わりではありません。例えば日本語サイトで登録し、完了メールが英語できたらどうでしょうか?また日本語で書かれたリンク先のページも日本語であることが望ましいです。カスタマーサポートはどうでしょうか?「お電話はこちらに」と書かれた電話番号にかけて「Thank you for calling.」と言われたらどうでしょうか?
Slackはどうなっているか見てみました。
①メール
Slackにアカウント登録した際に届く自動配信メールはしっかり日本語で返ってきました。件名から本文・フッターまで抜かりなく翻訳されています。日本語で登録された際は日本語のメールが飛ぶようにメールシステムでしっかり出し分けが行われています。日本語メールがくるのは当たり前だと思うかもしれませんが、一括英語のメールが送られてくる、という多言語化されたサービスも少なくありません。ユーザーにとってとても親切と言えます。
②リンク先
上で説明したメールのフッターに「Slack公式ブログ」というリンクが貼られているのですが、このブログは英語でしか提供していないようです。もしかすると近い将来、日本語のブログが開設されるかもしれません。
Slack 公式ブログ:https://slackhq.com/
困った時のリンク先、「Slackサポートセンター」は日本語・英語(US)・ドイツ語・スペイン語・フランス語と5ヶ国語に対応しています。サポートセンターの内容は、新機能がリリースされた際など随時最新の情報にしておかなければなりません。更新頻度も優先順位も高いページであるからこそ、5ヶ国語を即座にアップデートできるようなチーム体制がひかれていることでしょう。
Slackサポートページ:https://get.slack.help/hc/ja
③カスタマーサポート
Slackへの問合せ方法は3つあります。
- 問合せフォーム
- メール
- 電話
1・2に関しては日本語でも送れる安心感があります。3電話はアメリカの国際番号となっており、ハードルが高く感じます。
このページに関してはただ翻訳しているだけかもしれません。電話をかけたら英語の人が出るのではないか?無事に話せたとしても国際電話料金はいくらかかるのか、ユーザーは不安に思います。一番いいのは日本語のコールセンターを用意し日本の電話番号を記載することですが、その対応が出来ていないのであれば、アメリカの電話番号を日本語ページでは非表示にするのも1つの手かもしれません。
④SNS
Slackはサポートセンターページのフッターなど、Facebook・twitter・youtubeのリンクが貼られています。現状はこれら全て英語のコンテンツしかないようなので、今後各言語の公式ページを開設するか、英語ページ内に日本語コンテンツも追加されることを期待します。ファンコミュニティを作るためには、やはり言語の壁を取り払うことが必要です。
まとめ
ローカライズにはいくつか段階がありますが、Slackに関してはただ翻訳だけするというものではなく、文化に基いて深い所まで開発しているなと思いました。FaceBookなどで見る広告においてもローカライズされているのも、本気度を感じさせました。特定の国に本気で進出して成果を上げるには、プロダクトレベルでは当然ローカライズしつつ、マーケティング手段のローカライズも必要なんだと再認識しました。
日本人のファンも多い「Slack」のローカライズ、いかがでしたでしょうか?
また海外サービスが日本に進出した際にはWOVN.ioがローカライズレポートをお送りしたいと思います。
WEBサイト多言語化ツール「WOVN.io」がお送りしました。