世界有数のフォントベンダー「モリサワ」に聞く、フォント でWEBをブランディングする方法とは


WOVN.ioはWEBの多言語化のサービスです。翻訳をはじめ、動的ページ対応、多言語サイトのSEO、デザイン、専門用語集などの機能を提供しています。

WEBデザインを語る上で避けて通れないのが「フォント」です。たかがフォントと侮るなかれ。サイトのコンセプトにふさわしい適切なフォントを選ぶからこそ、サイトを見てくれる方に、適切なメッセージを届けられるのです。歴史あるものを紹介するなら明朝体や筆書体などキチッとしたフォントを、遊び心伝えたいなら丸ゴシック体やデザイン書体などの柔らかいフォントを選ばなくてはなりません。

WEBを考える上で非常に重要な役割をもつ「フォント」を手がけているのが株式会社モリサワです。そんなモリサワさんに、「多言語フォント」や、どんなWeb環境でも特定のフォントを表示させる「Webフォント」についてお話を伺いました。インタビュワーはWovn Technologies 副社長の上森です。(文中敬称略)

多言語フォントではユニバーサルデザインを意識

上森:
WOVN.ioは翻訳、通信、マーケティング、運用、UI UXなどのウェブローカライズ(WEB多言語化)のフレームワークを作り、クライアントにサービス提供しています。

その中の一論点として、PCやモバイルなどの異なる環境で同じフォントを表示させる「WEBフォント」、または外国人がWEBのユーザーになるときの「多言語フォント」が話題に上るケースが増えています。日本を代表するフォント提供企業であるモリサワさんに、本日はお話を伺わせて下さい。

Wovn Technologies 株式会社 取締役副社長 上森 久之

上森:
まずはモリサワについて教えていただけますでしょうか。

末次:
一言で言うとモリサワは、フォントを製作し販売している会社です。印刷物はもちろん、近年ではゲームや家電機器、デジタルサイネージ、IoT機器に表示されるフォントなどのデジタル環境のフォントも提供しています。

1924年に写真技術を応用して文字を入力する「邦文写真植字機」という機械を発明して創業し、時代の流れとともにデジタル化へと移行していきました。

株式会社モリサワ 東京本社 フォントソリューション部 課長末次 啓司 氏

上森:
海外サービスの日本ローカライズの手伝いもされているのですね。

それでは次に、多言語フォントのお話をさせて下さい。

WOVN.ioを導入検討されているお客様からのご相談で、最近多言語フォントの引き合いが本当に増加しています。英語や中国語はもちろん、たとえば従業員にタイ人の方が多ければタイ語、といった具合です。モリサワでも多言語フォントの相談は増えていますか?

末次:
日本国内のウェブサイトが海外に出ていくケース、外国のサイトが日本向けにウェブサイトを作りたいというケース、両方でモリサワのフォントを使っていただくケースは増えていますね。

上森:
オススメのフォントなどあるのでしょうか?

末次:
時と場合によって、必要なフォントを選んでいただくのがベストなのでオススメというのはあまりないのですが、全体的にモリサワの看板フォントである「新ゴ」、または新ゴをベースにしたフォントを利用していただくウェブサイトは多いです。

秋末:
新ゴは視認性が高く装飾のない均質で明るいゴシック体なので、大きなサイズでポスターやサイン、小さなサイズで名刺や文章まで、広範囲にお使いいただける書体となっています。現在「UD新ゴ」シリーズとの併記を目的として作られたサンセリフ書体「Clarimo UD」という多言語フォントもリリースされました。ちなみに「UD」は「ユニバーサルデザイン」の略で「わかりやすく」「読みやすく」「読み間違えにくい」をコンセプトにした書体となっています。

株式会社モリサワ 東京本社 フォントソリューション部 秋末 大作 氏

上森:
フォントがWEBサイトの印象を決めるのに重要なファクターなのはわかるのですが、たくさんありすぎてどのように選べばいいかわからないという声もありまして…なにかいい手段はないでしょうか。

末次:
MORISAWA PASSPORTという、多言語フォントを含めた1500書体以上のラインナップからフォントを使えるというサービスがあります。これを使っていただければフォントが試せ、イメージに合ったフォントを見つけられるかと思います。

また「TypeSquare」という、モリサワが提供しているWebフォントを提供しているサービスがあります。その導入補助として「TypeSquare Web Font Tryout」という、任意のウェブサイトのフォントを、モリサワのWebフォントで表示したらどうなるかを確認できるテストサイトがあるんです。Webフォントの導入を検討いただく際には、ぜひこれを使ってみてほしいですね。

あらゆるWeb環境で同一のフォントが表示されるWebフォント

上森:
ありがとうございます。ちょうどWebフォントの話になったので、Webフォントについて教えて下さい。そもそもWebフォントとはどんなもので、メリットはなんでしょうか。

末次:
Webフォントとは、ウェブサイトを提供する側がユーザーのWebブラウザ上に、表示させたいフォントを表示させる技術です。

Webブラウザで表示する際、サイト側が何も設定をしないとユーザーのPCのデフォルトフォントで表示さます。しかしその場合では、サイト側が意図しないフォントが表示されるケースも少なくありません。その課題を解決するサービスがWebフォントです。

モリサワはDTP(編注:DeskTop Publishing、PCデータを作成して印刷物を作成すること)で長年培ってきた技術をWEBにも応用しています。たとえばユニバーサルデザインに配慮して、どういった状況でも可読性、視認性が高くなる、といった観点からフォントを開発しています。

上森:
フォントを通して、伝えたいものを伝えたいように伝えられるということですね。


秋末:
Webフォント自体のメリットでいうと、SEOも挙げられます。

Webフォントがなかった時代、Webブラウザ環境でユーザーに意図したフォントを見せようとすると、画像でテキストを表示する方法しかありませんでした。見出しなどのポイント部分を、本文と別のフォントで表現しようとした場合、そのための画像とテキストを別に用意しなければなりませんでした。

ただそうすると当然、ウェブ上ではテキストではなく画像と認識されるので、SEOができないというジレンマがありました。また、画像とテキストの準備のほか、Webサイトの設定や確認にも手間と時間がかかります。

Webフォントの登場によって、HTMLに簡単なタグを加えれば、テキストにしても意図したフォントでユーザーに作り手側が意図したウェブページを表現でき、SEO対策もできるようになります。

上森:
モリサワのフォントを使っている企業は、WEBサイトにおけるブランディングも意識している会社が多いのかと思います。現地の言語やWeb環境下で、Webフォントが果たす役割について、どのようにお考えでしょうか。

秋末:
Webフォントの役割は大きく2つ。1つ目がウェブサイトのデザイン性、2つ目にウェブサイトの管理コストの削減です。

ウェブサイトのデザイン性については言わずもがな。サイトが伝えたいことを表現できるフォントを、ユーザーのWeb環境に依拠せず伝えられます。またWebフォントを使用することで、フォントを入れた画像をわざわざ用意する手間が省けますし、CSSを使用することでページ内のフォントを一括で管理することができるため、結果としてウェブを管理するコストが削減できます。

上森:
今までphotoshopなどでいちいち用意していた画像が不要になるなら、管理はかなり楽になりますよね。画像ではなくテキストデータにすることで、多言語環境にもプラスになりそうです。たとえば自動翻訳の対象にもなりますし、音声読み上げも可能になります。

秋末:
Webフォントの特徴としてはもう一つ、レスポンシブ対応が挙げられます。近年はマルチブラウザでWEBを閲覧したり、タブレットやスマートフォンなどのモバイル端末でWEBを閲覧する方が増加したり、PCやモバイル端末のWeb環境で違ったフォントを表示すると、WEBサイトの印象がかわってしまい、ユーザー体験を損ないかねません。そこでWebフォントを使い、同じフォントを統一的に表示させようということです。

上森:
たとえばGoogleなどの企業がフリーのWebフォントを提供している中で、モリサワの300書体以上利用できるWebフォントサービスにはどのようなメリットがあるのでしょうか。

秋末:
モリサワはDTPをはじめ、今までプロユース向けの書体を提供してきました。現時点でウェブフォントとして約300書体を様々な企業にご利用いただいています。それに比べてGoogleなどのフォントは、書体数に限りがあります。そのためフォントによる表現は狭まってしまいます。凝ったウェブデザインをされている企業には、モリサワのフォントでよりサイトが伝えたいことを表現できるご提案ができるものと考えております。

東京2020オフィシャルサポーター契約を締結

上森:
多言語フォントやWebフォントなどを展開しているモリサワさんですが、モリサワ自身もグローバルな仕事はあるのですか?

末次:
東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会が開催されますが、その「フォントデザイン&開発サービス」カテゴリーにおける「東京2020オフィシャルサポーター」になっているのが、直近の代表的な事例ですね。

上森:
「フォントデザイン&開発サービス」というカテゴリーがあるんですね。

末次:
モリサワは1964年の東京オリンピックのときも、オリンピックの放送用にテロップ機をNHKに納入しており、オリンピックにご縁がありました。過去にもオリンピックで使用するフォントについて指定はあったらしいのですが、「フォントデザイン&開発サービス」というカテゴリーではモリサワが初めてだと思います。

モリサワは、東京2020大会の公式フォントを東京2020大会組織委員会に提供しました。公式フォントには和文と欧文があり、大会名称、チケット、メダル、表彰状、広報誌など東京大会に関する様々なアイテムや印刷物等に使用されます。

上森: 
モリサワが開発した、東京オリンピックだけの公式フォントということですね。作るに際してはやはりご苦労があったのでは。

秋末:
オリンピックという世界的なイベントなので、やはりユニバーサルデザインには気を使いましたね。これから2020年に向けて色々なところで使われると思うので、今から楽しみです。

上森:
本日は多言語フォントからWebフォントの話まで伺わせていただき、ありがとうございました。WOVN.ioを使うお客様がフォントを課題にしている場合など、ぜひ相談させてください。

 

(文・写真 pilot boat 納富 隼平)


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