馬。翻訳される。日本語編



日本語の慣用句やことわざ。その裏には文化的・歴史的背景があって、そのまま英語にしても理解してもらえません。
でも、もし英語でコミュニケーションを取っているときに、「この状況は『猫に小判』と形容できるな。でもどうやって…」「それは日本語だと『漁夫の利』と言うんです。教えてあげたいな。でも英語が…」って状況は無きにしもあらずだと思います。

そんな状況を援助する、おもしろい表現を紹介して翻訳していくこの企画。今日紹介するのは動物に関する表現!馬!馬のみ!馬に関する日本語の愉快な表現を紹介して、その意味に近い英語の表現を紹介していきます。

 

 

タカです。前回のブログでも述べたように、私は英語の講師をしています。英語のレッスンをしていると、「せんせー、『誉め殺し』って英語でなんていうのー」「え、英語でどうやって聞くんやっけ、えっと、How…How do you… say『わびさび』あーin English?」(「わびさび」って英語で何と言いますか。)なんて質問をもらいます。

知らんがな。

これは英語講師として退廃的な態度ですが、「誉め殺し」とか「わびさび」とか、訳すのが楽ではない日本語表現です。「誉め殺し」って’compliment killing’?「わびさび」って本来何を指してんの?と直訳を試みると余計に謎が深まります。

でも、もし会話の中で日本語のことわざが思い浮かびその概念を伝えたい!ことわざを説明したい!という状況があると思います。

と言うことで!笑えて一風変わった日本語のことわざ・言い回し・慣用句などを紹介して全力で訳してみたいと思います。今回は様々な「馬」に関する表現の翻訳に挑戦してみましょう。

※それぞれ見出し表現のすぐ下にある英語は筆者が無理やり直訳したものなので、意味が通じない表現です。

 

1. 馬耳東風(ばじとうふう)

直訳:easterly wind to a horse’s ear
(そのまま単語ずつ訳すと、 ‘horse, ear, east, wind’)

馬の耳に東から風?この四字熟語、それぞれの語を英語に変換しただけでは英語話者は何を言っているか分からないと思います。東風は「とうふう」や「こち」と読みますが、もちろん東から吹いてくる風のことを言います。暖かい、春を知らせる風を指します。そして、馬事(ばじ)は文字通り、馬の耳のことを指しています。

その二つを組み合わせて、馬の耳に東風が吹いたとしても馬は何も感じない事から転換して、「忠告や意見を述べても、耳を傾けず心に留めないこと」を意味します。

 

1.5 馬の耳に念仏(うまのみみにねんぶつ)

直訳:Buddhist prayer to a horse

馬耳東風に加えて似ている馬表現を紹介しましょう。この「馬の耳に念仏」ということわざも、「意見、忠告、助言を投げかけても効果がない」という意味。でも、お坊さんがいくらお経を唱えても馬には理解できないことから生まれた言葉なので、愚かだというニュアンスが含まれます。

これの二つの表現に似たような日本語表現は「豚に真珠」「猫に小判」「蛙の面に水」「暖簾に腕押し」などがありますが、英語はどんな表現があるでしょうか。3つ紹介したいと思います。

 

・go in one ear and out the other
「何か言われても頭に残らない、聞き入れない」(片方の耳から入って、他方の耳から出て行く)
 
・preaching to deaf ears
「(意見や助言を聞き入れない人を)説得する、助言を与える」(‘preach’は「説教する、伝道する」という意味です。)
 
・like water off a duck’s back
「(批判や忠告が)無意味で、無駄で」
・I give him a lot of advice, but it seems that it goes in one ear and out the other.
「彼にたくさんアドバイスを与えても、馬耳東風のようだ。」
・You are preaching to deaf ears. That manager is known for her stubbornness.
「馬耳東風ですよ。あの部長は頑固さで有名ですから。」
・The interviewer received much criticism, but it is not affecting her opinion. It’s like water off a duck’s back.
「たくさん批判があったけど、彼女の意見には何も影響を与えていないみたいです。馬の耳に念仏ですね。」

上記の3つの他にも、’tilting at windmills’や’talking to a brick wall’など、「話をしても何も効果がない」「何をしても無意味である」と言う英語の表現は様々なようです。

 

2.野次馬(やじうま)

直訳:(a) heckling horse

「あ、事故が起きたみたい。野次馬いっぱいいますね。」みたいに、よく使う表現ですよね。火災や事故現場に興味半分で集まっている人の集団を野次馬と言います。この馬表現は江戸時代から使われているそうです。

「親父馬(おやじうま)」に由来するというのが有力な説です。親父馬とは年老いた馬をさす言葉で、「体力が衰えて仕事に役に立たない」という意味。それが転じて「自分自身と直接関係のない出来事に興味本位で集まる人、役にも立たないのに騒ぎ立てる人」を意味するようになったのですね。

これは英語でどうやって表現する?

・ rubbernecker
「物見高い人、じろじろ見る人」 
・nosy parker
「詮索好きな人、おせっかいもの」
※nosy(nosey)は「詮索好きな、知りたがりの」という意味で、少しネガティブな意味で使用されることが多い気です。他の人のメールを読む行為、恋愛関係について執拗に質問する行為、これらはnosyに当たります。「野次馬」の意味にはピッタリ合わないかもしれません。 
・curious onlooker
「興味のある傍観者、好奇心の強い見物人」

この辺りがベストみたいです。

・These rubberneckers are in the way. I can’t get to my office.
「 野次馬が邪魔だな。オフィスに行けない。」
・That person is a nosy parker. He always comes out of his house when something happens in the neighborhood.
「あの人は野次馬です。近所で何か起きると、必ず家から出てきます。」

・The fight in the street attracted curious onlookers.
「道端での喧嘩で野次馬が寄ってきた。」

※これらの表現で「野次馬」を表現することはできますが、文脈によっては「野次馬」の意味とはズレてしまう可能性があります。

 

 

3.馬が合う

直訳:the horse matches

乗馬から生まれた言葉みたいですね。騎手と馬の組み合わせが良くて息が合わないと乗馬で不利になってしまうことから派生して、「意気投合する、気があう」という意味の馬表現です。

「気が合う」とは英語でどのように表現すればいいでしょうか。

・hit it off
・have a (good) chemistry
・speak the same language
この3つの表現は全て非常に似通った表現です。「馬が合う」以外の日本語訳は「考え方が同じである、心が通い合う、反りが合う、仲良くなる、相性が合う、息がピッタリである」などです。

 

・It looks like they hit it off well.
「あの二人は馬が合うみたいだな。」
・They have been talking for two hours. I guess they have a good chemistry.
「2時間ずっと話してますね。あの二人は馬が合うんでしょう。」
・She and I speak the same language. We always end up having the same ideas.
「彼女と私は馬が合うんです。いつも同じアイディアを思いつくんです。」

 

4.尻馬に乗る(しりうまにのる)

直訳:ride on the rump of a horse

別に本当にそう思っていないのに同調する。何も考えていないのに便乗する。これらの行為を「尻馬に乗る」と表現しますよね。

上記の’rump’は四足獣の臀部、後部を指すようですが、もちろんこのままだと意味が分かりませんよね。では、これと似た英語の表現は?

 

・go along for a ride「受動的に何かをする、参加する」

・follow suit「先例にならう、他の人の行動をまねる」

・jump on the bandwagon「流行に乗る、優勢に便乗する」

3つ目は、特に流行や大多数の意見に便乗する場合に使われます。

 

・He is going to that seminar you told me, so I’ll go along for the ride.
「教えてくれたセミナーに彼も行く予定なので、私も尻馬に乗ります。」
・The manager left the conference room, so I followed suit.
「マネージャーが会議室を出たので、尻馬に乗って私もでた。」
・Everyone is listening to rap music, so I am jumping on the bandwagon.
「みんなラップを聞いているから、尻馬に乗って私も聞きます。」

 

5.馬の骨

直訳:a horse’s bone

やっぱりこのような日本語はそのまま訳してもどうにもならないですよね。「素性の知れない人、身元不明の人」を罵って使う表現です。「どこの馬の骨かもわからない」というセリフは普段からよく聞きます。

この馬表現も正確に意味が合致する英語表現が見つからなかったので、部分的に意味が重なるものをご紹介します。

・stranger「見知らぬ人、他人」
・dubious person「怪しい、不審な人」
・intruder「侵入者、邪魔者」

・outsider「門外漢、部外者」

・nobody「取るに足りない人

 

※今回はイマイチ英語表現がマッチしない為、例文は一つ。

・Do you see the guy in a white suit? Who is that nobody?
「白いスーツを着た男の人見えるか?どこの馬の骨だ?」

 

まとめ

どうでしたか?日本語で馬に関する言い回しがこれだけあるとすれば、もっともっと興味深い摩訶不思議な日本語表現があるはずです。

日本語を他の言語で説明しようと試みると、どれだけ面白くて奇妙な言葉が日本語に詰まっているか自分自身で身に沁みて感じることができ、日本語を話さない人にもその豊かさを共有することができます。
そんな体験ができるように、おもしろい日本語表現をどんどん紹介していきます。次はどんな表現が現れるでしょうか。

 

<筆者プロフィール>
ペンネーム: Donté Taka(ダンテ・タカ)
生まれも育ちも大阪、東京在住
Hip-hop好き、文学好き、映画好き
最近見てめっちゃよかった映画は
‘Romeo is bleeding’。ドキュメンタリーです。

参照:
https://wisdom-box.com/season/kochi/
http://www.minnano-jouba.com/mame_chishiki08.html
http://rachelsenglish.com/horse-idioms/
https://newsmomonga.com/6714.html

 


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