2007年にドイツで産声を上げ、今や世界中で使われている統計調査データベース「スタティスタ (Statista)」。その東京オフィスが2019年に開設されました。
スタティスタは世界各地のビジネス関連の統計データ等が簡単にできるサービス。コンサルティングファームだけでなく、新規事業に取り組む事業会社でも多く使われています。利用者のニーズは当然ながら種々の「データ」を効率的に入手すること。「データ」を使うことに対するニーズは近年急速に高まっています。
今回はスタティスタ日本代表である津乗氏と、Wovn Technologies COO 上森が対談。データドリブンな経営や、データの多言語化について、語り合いました。
津乗 学 スタティスタ 日本オフィス代表
2019年11月、スタティスタ 日本オフィス代表に就任。アドビ、インテル、マイクロソフトなどで新事業開発、法人営業、マーケティングに従事。直近では、リテール x デジタル x IoTをテーマに、ソリューションの開発やユーザー企業への提案活動を中心に活動。さらに遡ると、デジタルマーケティング、学校講師、ECサイトのオーナーなど様々な分野で経験を持つ。
スタティスタはデータドリブンな意思決定を支援するデータベース
上森:
まずはスタティスタについて教えていただいてもよろしいでしょうか。
津乗:
スタティスタは2007年にドイツのハンブルグで創業された会社です。創業者のFriedrich(フリードリヒ)とTim(ティム)は元々コンサルティングファームで働いていて、様々なプロジェクトに携わっていました。
リサーチのフェーズでは自分達で必死になって時間をかけて調べたり、案件によっては外部のリサーチ会社にお願いしていたそうですが、どちらにせよ時間もコストも非常にかかっていました。そこで彼らは、自分達だけでなく、同じような悩みを持つ人への有効な解決策を作りたいと思い、スタティスタを創業しています。
上森:
スタティスタはビジネスに関する統計調査データベースということですが、どういったデータが閲覧できるのでしょうか。
津乗:
一言で言うと「ビジネスの意思決定に必要なあらゆるデータ」です。大きな視点から言うと、例えばマクロ経済指標である国の経済規模や、雇用状況、貿易収支等がすぐにわかります。「それくらいなら調べればすぐにわかるんじゃないの?」と思われるかもしれませんが、ネット上の情報だと出典がわからなかったり、情報が古かったりすることもありますが、その点スタティスタはちゃんと社内の複数のエキスパートが検証したデータだけを掲載していますので、いつでも安心してご利用いただけます。
もうちょっとミクロな視点にしていくと、業界ごとの市場規模や今後の予測もわかります。例えばデジタルメディアの中には動画や音楽、電子書籍などがあり、さらに動画の中にはダウンロードもあれば、今年のステイホームで伸びたストリーミングやPay Per Viewがあります。それぞれのカテゴリーで、コロナの影響が反映された予測値までが分かるようになっています。ちなみにこのグラフは日本でのオンデマンドビデオの市場データです。
上森:
コンサルやシンクタンクがそういったデータを使うわけですね。
津乗:
それに加えて最近は事業会社との契約も増えていて、主に経営企画や新規事業開発を担当されている部署にご利用いただいています。これまで事業会社が調査会社にアウトソースしていた仕事を、内製化しているんですね。自分の手や頭を使い、きちんとデータを見て理解したうえで、血の通った事業企画を作ろうというケースがすごく増えている気がします。
意外なところだと例えば、飲食チェーンから問い合わせがありました。従来のお店に来てもらうという営業スタイルはもちろんですが、最近だとECやフードデリバリーがどんどん盛んになっていますよね。フードデリバリーをやるとするとペイメントやロジスティクスが課題になってきますが、新しい事業をやろうとすると、知るべき情報というのは業界をまたぎます。とはいえ、そんなこと全部を外注したら大変なことになる。そこでスタティスタを使って効率的に情報収集するというわけです。業界や世界を横断して情報が簡単に取れるというのは、スタティスタの強みですね。
上森:
そうやって情報収集ができるようになっていくと、データドリブンな経営ができるようになっていきますね。
津乗:
おっしゃる通りです。データ自体に価値があるわけではなく、データをどう使うかに価値があるんですよね。経営に必要なのは決断とその実行であって、そのためのデータ入手で苦労しても仕方がないんです。
上森:
スタティスタを使ってみると、データが既にレポート形式になっていますよね。そのまま経営会議の議事録に添付できるような資料になっているのは革命的に便利です。
WOVN.ioでも、新しい市場や顧客のことを調べることはよくあります。例えば今まで小売業のクライアントはいなかったけど、新しく問い合わせがあった、みたいな。じゃあ潜在的に他の会社にもニーズあるのかな? って思ったらその業界に構造や数値データが必要になるじゃないですか。そんなときにスタティスタは重宝しています。
数字やデータがあるのとないのでは、戦い方が変わってきますよね。データがないということは市場がないから、つくりにいかなければならないかもしれなくて、啓蒙するにはどうするかに頭を悩ませなければいけません。でもデータがあれば、すぐに戦いにいけますよね。
ローカライズは自己チェックも強化する
上森:
多言語化を含めたローカライズの話をさせて下さい。スタティスタこそドイツの会社で、日本等各地にローカライズしていますよね。
津乗:
顧客は世界各地にいますが、オフィスを構えているという意味では、欧米を中心に13拠点あります。東・東南アジアにオフィスがあるのは、シンガポール、インド、そして日本です。
日本はGDPもまだ世界第3位なので世界的にもプレゼンスがありますし、製造業が強いという意味ではドイツに産業構造が似ています。僕自信の経験からしても国民性にも通じるものがあって、他の国への進出に比べればローカライズしやすいんじゃないですかね。
とはいえやっぱり多言語化という意味では大変なこともあります。スタティスタは基本的に英語でサービス展開しているのですが、日本には英語サイトのハードルが高いと感じるユーザーがたくさんいらっしゃいます。とはいえほとんど数字やグラフなので、そんなに難しいことが書かれているわけではないんですよ。だけどUIとして英語が並んでしまうと、取っ付きづらい印象を与えてしまうこともあるようです。
スタティスタの多言語化はまだまだこれからの課題ですが、例えば翻訳の品質にしても、特に日本ではどこまでどうやるかという課題が一般的にはあるんじゃないでしょうか。
上森:
「特に日本では」と言いますと?
津乗:
先程もお話しした通り、ドイツも日本も製造業が基幹産業という背景がありますよね。なので高い歩留り率が感覚として当たり前なんですよね。つまり「完璧な品質じゃないと受け入れられない」という考え方が染み付いている。
もちろんそれは製造業としては非常に大事なことなんですけど、他方でデジタルなものも含めサービス業は必ずしもそうではない。モノだけでなく、購買前後も含めた体験がより大事になってきます。
上森:
本当にそうですね。サービスの世界ではROIの考え方がちょっと違います。
WEBサイトの多言語化を例に挙げると、企業側としては言語毎のページを用意せず、個人が勝手にWEBサイトをちょっと見るくらいならGoogle翻訳でも全く問題ありません。しかし企業側がGoogle翻訳しか用意しないと、エンタープライズの品質に耐えうる翻訳は出てこないし、デザインが崩れるかもしれないし、SEOもできません。商品の表記ゆれは好ましくないので対訳を定めておきたいですし、ヨーロッパの方々向けのサイトならGDPR対応だって必要です。そういった対応ができていないことの一つひとつは、後々ブランディングにも影響してきます。
津乗:
確かにスタティスタのユーザーの中にも、Googleの機械翻訳を簡易的に使われている方はいると思いますが、どうしたって完璧ではありません。スタティスタだったら「Turkey」は国名の「トルコ」を指すことが多いのですが、「七面鳥」になっていたりすることがよくあるんです。
上森:
そうなんです、「Turkey」くらいはちゃんと直してほしいですよね(笑)。翻訳の難しいところは、「翻訳は相対的」なこと。なので翻訳のプロでも、翻訳結果の意見が割れることは多々あるんです。
WOVN.ioはSaaSとして、多くのエンタープライズ企業に使われています。多言語化としてこんなに使われているサービスはありません。そのため翻訳も含めた多言語化を、どこまでやるのがベストプラクティスなのか、ということを提供していくのは、我々の務めだろうなと感じています。どこまで多言語化していいかわからないときに、「WOVN.ioでローカライズしているんだからこのくらいでちょうどいいのかな」ってなるようにしていきたいですね。
津乗:
それはいいですね。これは自戒を込めて言うのですが、日本語で発信する情報は、どうしても自己チェック機能が緩くなってしまうという面があるのではないかと思っているんです。つまり日本語ならどうせ海外からはわからないから、これくらいでいいんじゃないのか、ということです。
それをWOVN.ioを使うことで簡単に多言語化できるようになれば、単に英訳をチェックするのみならず「ちゃんと英語圏で理解されるような考え方になっているかな」とか、そういったところまで考えが及ぶようになると思うんです。WOVN.ioが自己チェック機能を補完してくれれば、社内の隠れたエデュケーションにも貢献してくれそうです。
データに基づいた意思決定が当たり前に
上森:
日本の大企業は、これからデータドリブン、ファクトベースな方向に進むと思っているんです。なぜなら新しく判断しなきゃいけないことが、めちゃくちゃ増えていくから。
津乗:
これまでの物差しが通用しないと。
上森:
はい。どこかで見たことがあるような意思決定ではなく、全く新しい意思決定です。ちょうど今のコロナ禍の対応もそうですよね(編注:対談はCOVID-19に関する緊急事態宣言が出ている2020年4月に行われました)。VUCA(編注:「Volatility(激動)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(不透明性)」)の時代に職人のように経験を積んでいくのはもう不可能なので、データに基づいて意思決定していくしかない。
津乗:
未知の変数がどんどん出てくるので、使い慣れた物差しだと測れないものが増えてしまう。そうすると新しい意思決定に時間と労力がかかるようになっていく。
上森:
逆に言うと、データがないと判断できない、ということも増えていくんだと思います。何か施策をうっても、結果が測定できないことには時間とお金をかけにくくなる。
津乗:
測定できないものにお金をかけていいのかというのは、本当にそのとおりだと思います
上森:
このコロナ禍において、多くの企業はコストの見直しを行うはずです。コストの仕分けに際しては投資対効果を考えなくてはなりません。それが「わからない」では、やめるかどうかすら判断できません。だからこそビジネスデータ、市場トレンド、マーケットデータをファクトとして意思決定に使っていくという、スタティスタのやっていることの必要性は、これから重要度を増していくんだろうなと思っています。
津乗:
3年後にスーパーヒットするような製品を開発できる天才って、なかなかいませんよね。普通の会社は2005年の時点でiPhoneを開発していないわけです。そうすると一般的な企業はデータを使って戦うしかない。データは武器ではなくて、当たり前になっていかなくてはいけないなと、私も感じています。
上森:
多言語化も同じです。一見すると多言語化は効果が見えにくいのですが、可視化することによって、パフォーマンスを測れるようにしていきたいです。
データを図書館のように当たり前に
上森:
スタティスタは長期的な展望をどのように考えているんですか?
津乗:
もちろん日本オフィスの代表としてはサービスを売っていかなければいけないのですが、その先には、誰もが当たり前にデータが手に入る世界、データが特権的なものじゃなくなる世界というものを描いています。データを使って何かを作ったり、ビジネスの判断をしたり、企画を作る。こういうことを当たり前にしていきたいです。
それは企業だけに留まりません。なんなら学生のうちからどんどんデータを使って、情報感度を高めて欲しい。図書館のように当たり前にあるものにしたいし、むしろ蛇口を捻ればデータがじゃあじゃあと出てくる。しかも水質は素晴らしい、と。それくらいデータが特別なものでなくなるまでスタティスタを成長させたいですね。
上森:
繰り返しになりますが、WOVN.ioもインターネットの多言語化という新しい市場を作るうえで、データが必要です。WOVN.ioのお客様も、データがないことには意思決定ができないという場面も増えてくるでしょう。
何が起きるかもわからない、推測もできないという暗闇を照らしてくれるのがデータなんだと思います。実はスタティスタとWOVN.ioが一緒になって、必要な情報をレポーティングしていきたいなと相談していたんですよね。ぜひよろしくお願いします。本日はありがとうございました。
津乗:
はい、もちろんです。こちらこそありがとうございました。
(執筆:pilot boat 納富 隼平)
本件に関するお問い合わせ
Wovn Technologies株式会社 広報
prtm@wovn.io
03-4405-9509
――
スタティスタ日本オフィス カスタマーサポート
support.japan@statista.com
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