WOVN は、7月に MPower Partners Fund L.P. (以下、MPower)を始めとした 36 億円の資金調達を実施しました。プレスリリースはこちら。MPower は2021年5月に設立された、日本初の ESG 重視型グロースファンドです。ESGとは何か、ESG 投資の観点から WOVN がどのように見えたのか、MPower の代表パートナーであり、100万部のベストセラー「ファクトフルネス」の翻訳者でもある関 美和さんにお話をお伺いしました。
- MPower 創設のきっかけ
- 関 美和さんについて
- MPower と ESG 投資について
- ESG の観点から見た WOVN について
- 日本企業の ESG の取組促進について
1. MPower 創設のきっかけ
ポテンシャルある企業がグローバルに成長していくお手伝いをしたい
「まず、MPower を立ち上げたきっかけについて教えてください。」
関さん:
昨今、ESG 投資 のコミュニティが欧州では確立しつつありますが、スタートアップの世界では ESG 投資がまだ確立していないため、ポテンシャルあるスタートアップ企業が大きくグローバルに展開していくお手伝いができればと思い、MPower を立ち上げました。
「MPower は現在どのくらいの規模でどのような領域に投資をされるのですか。」
関さん:
私たちのファンド規模は160億円で、5億から15億円のチケットサイズです。ただこれは1号ファンドなので、2号3号と立ち上げて、できればさらに大きなサイズで投資できるようなファンドにしていきたいと思っています。また、投資領域に関しては、社会課題を解決する、5つの領域を設けています。テクノロジーを使ったヘルスケアやウェルネス分野、必要なところにお金を行き渡らせるサービスとしての FinTech 分野、次世代の働き方とか学び方など生産性を上げるような分野、シェアリングエコノミーなど循環経済のプラットフォーム分野、それと環境関連です。
「ベンチャーに出資するときにどのようなことを大切にされていますか。」
関さん:
市場規模が大きく、成長の可能性が高いことはもちろん大前提ですし、解決しようとしている課題が本物で、それに対してのソリューションのあり方が正しくかつ競争力があること。あと、企業が大きくなるためにはマネジメントやリーダーシップ、チームの姿勢や能力が非常に大事になるのでそれも大切にしています。
2. 関 美和さんについて
隠れた真実を掘り出したい、それこそが投資の大きなチャンス
「話は変わって、関さん自身について色々お伺いしたいのですが、関さんがこれまでに翻訳してきた本はどういったテーマで選定していますか。」
関さん:
実は私自身で翻訳する本のテーマを積極的に選んでいるわけではないんですよ(笑)。一緒に仕事をした編集者の方が、一歩先を行くトレンドやテクノロジーなど私の性格を読み取ってくれていて、似たようなテーマの翻訳が来るのかなと。
「ある意味色がつくというか、翻訳の方向性が自然にできていったんですね。」
関さん:
『ファクトフルネス』を一緒に作った編集者さんがテック起業家の本がお好きな方で、『ジョナサン・アイブ 偉大な製品を生み出すアップルの天才デザイナー』や『Airbnb Story』、『TED TALKS』と何冊かご一緒したこともあって、私の色というよりも編集者さんの好みのテック系や新しい潮流を捉えるようなものが自然と集まるようになっていましたね。
その中でも翻訳者として飛躍するきっかけになったのは、『ゼロ・トゥ・ワン 君はゼロから何を生み出せるか』の翻訳がきっかけだったと思います。
「僕も5回ぐらい読みました。」
関さん:
先程自分のテーマはないと言いましたが、テーマが全くないというわけでもなく、「隠れた真実を掘り出したい」という思いはすごくあるんですよ。隠れたというところが重要で、みんなが知ってることはあんまり別に私がやらなくてもいいかなと。世の中の90パーセントの人は正しいと言っているけれど、そうじゃない真実があるならそれを外に出したいという気持ちはあります。
「ところで、関さんはベストセラー『ファクトフルネス』の翻訳家、という認識の方も多いと思うんですけど、関さん自身はどんな方なんですか。」
関さん:
子供の頃は、福岡県の田舎で炭鉱が閉山された寂れた町で育ちました。最初は自転車操業的な町工場だったのでそんなに裕福ではなかったです。
でもそんな中で両親がわりと本を読んでいたこともあり、家の本棚にあった西洋文学の本を読んできたことが幸運にも原体験として翻訳者になったことにつながっていると思います。
3. MPower と ESG 投資について
ESG に配慮している企業の方が、持続的な成長が可能
「改めて ESG について教えていただけますか。」
関さん:
SDGs と類似の部分も多いですが、ESG は企業活動および投資の側面から持続可能な社会をつくるための観点です。E:Environment(環境)、S:Social(社会)、G:Governance(ガバナンス)の3つの観点。ESG マインドがあり、これをきちんと実装できるスタートアップに投資をするのが私たちの投資の一つのクライテリアです。
「利益が出ているかどうかだけではなく、世の中全体が豊かになるような企業活動・サービスを提供している会社に出資をしましょうということですね。」
関さん:
そうですね、例えば環境に悪影響を出している企業は、そのうち環境を悪化させない新しいテクノロジーに淘汰されるかもしれません。
また、例えば採用においても ESG に配慮している企業の方が、従業員の心身の健康に対してのケアがしっかりしていたり、ワークライフバランスに対して敏感だったり。
ダイバーシティの観点でも、多様な人材を抱えている企業の方が、多様な顧客の要望に対応するサービスや商品を作れるため、ビジネス機会が大きくなりますよね。
企業の持続的な成長に ESG が寄与する、あるいは必須要素であるという前提で企業に投資するのが ESG 投資だと思います。
もう一つ、企業のリスク低減につながるともよく言われています。企業統治の面で多様なリーダーシップ層がいることで間違った方向に行ってしまうリスクを低減できますね。
ただし、私たちはインパクトファンドではないのでいわゆる社会貢献とは一見関係のない分野にも投資はします。成長戦略に ESG を実装するお手伝いをし、企業価値を上げるのが私たちの仕事です。
4. ESG の観点から見た WOVN について
WOVN は、ダイバーシティとインクルージョンの両側面で貢献できるプラットフォーム
「関さんから見て、WOVN は ESG にどのような貢献ができると感じましたか。」
関さん:
多言語の Web サイト開発において、沢山の手間暇がかかり効率がよくないことは社会全体の課題でもあるので、その部分の生産性を向上することが働き方やワークライフバランスの向上につながると思います。
そして日本企業で働く日本語を母国語としない人たちに、日本語の煩雑な手続きや様々な情報を日本語以外の言語でアクセスできるようにすることは、インクルージョンという意味でとても素晴らしいプラットフォームだと思います。自治体における日本語を母語としない人への情報発信や災害時のコミュニケーションにも役立ちます。
加えて、日本企業は海外のお客様や海外の従業員へうまく情報を発信できない部分があります。顧客市場や従業員あるいは海外現地コミュニティなど、ステークホルダーに向けて自分たちのポリシーや企業理念をアップデートできる、ダイバーシティとインクルージョンの側面でも貢献しているプラットフォームだと思います。日本企業だけでなく、多国籍に活動する企業すべてがマイノリティ言語や文化への対応に使えるため、グローバルな拡大余地も大きいと考えています。
5. 日本企業の ESG の取組促進について
日本企業の企業価値向上には、海外投資家を見据えた ESG の取組が重要
「最後に、日本企業の ESG への取り組みは、今後どのようになっていくと思いますか。」
関さん:
上場株の世界では取引金額の6,7割は海外投資家です。そして、彼らからはガバナンスや環境に対して様々な要求があります。ヨーロッパでは環境の基準に合わないと投資しないという投資家も増えてきています。ESG への対応がしっかりしていると企業価値が高まり、そうでないと企業価値が高まっていかないという現実が加速してくれば、日本企業側も ESG へ積極的に取り組むようになると思います。
「本日は色々なお話しを聞かせていただき、ありがとうございました!」