本厄を翻訳してみた。〜9月30日は国際翻訳デー〜


こんにちは。皆さん、今日9月30日は何の日かご存知でしょうか?私達にとっても大切な日、世界翻訳の日でもあります。

先日、世界翻訳の日の2週間ほど前、ある打ち合わせの中で「私今年翻訳なんです」「実は私も翻訳で、大変な目にあいました、、、」という会話が繰り広げられました。

明らかに不自然な会話だったので、もしや翻訳に携わっている私は4音節の名詞は全て「翻訳」という単語として認識してしまうのか、と自分の耳を一旦疑ってみたのですが、よくよく聞くと「お祓いに行かないといけませんね」という発言で「あ、『翻訳』ではなく『本厄』か」と納得がいき自分の耳を信用することができました。

 

というわけで、今回は、駄洒落にのせて「『本厄を翻訳してみた』って題名で記事書いて!」って無茶に振られたので、「『厄』って何?」という話を翻訳者目線でしていこうと思います。

 

(白金氷川神社にて)

 

まず「世界本厄の日」、あ、「世界翻訳の日」って何?

2017年、国連総会にて9月30日が「世界翻訳の日(International Translation Day)」として制定されました。なぜ9月30日になったかというと、この記念日は、聖書をラテン語に翻訳したヒエロニムスというキリスト教聖職者が亡くなった日だからです。

この日は、言語が異なる国々の理解や協力を促進し、世界の平和と発展のための重要な役割を果たす言語の専門家を称える日です。

本厄、あ、翻訳の難しさ

日本語から他の言語に訳すときに困難なのが日本特有の社会的背景に依存する言葉です。「わびさび」「守破離」「もったいない」「積ん読」「お客様は神様です」「上り線・下り線」などなど、宗教的、政治的、思想的、文化的、歴史的、、、どこに分類されるかわからないですが、海外の人には考えたこともないような概念がいっぱいあるみたいです。もちろん、日本語だけに限ったことではありませんが、こんな概念を1つの言語から他の言語に言い換えるってのはまさに翻訳者の職人芸ですよね。

 

厄って?

陰陽道が由来とされている「厄」という概念は、江戸時代以降に一般庶民に定着したそうです。数え年で本厄にあたるのが、女性だと19歳、33歳、37歳で、男性だと25歳、42歳、61歳。「人生50年」と呼ばれていたこの時代に、病や身体的な不調が現れやすいのが、これらの年齢だったそうです。70代、80代に「厄年」が存在しないのは、平均寿命が30代半ばだった時代にそもそも、それらの年齢を厄年として設定するという考え方自体がなかったからなのですね。33歳=「散々」42歳=「死に」のように、語呂でその年齢に設定された可能性も非常に高いと言われています。

 

という風に「厄」と聞くと病や災いを連想しますが、「役年」という考え方から生まれたという説もあります。役年には役目を与えられた人は、村の大役を担うため、厄除けや厄払いを受けて身を浄化し、普段の生活も慎重に過ごしたと言われています。

世界に厄ってあるの?

調べてみたところ、特定の年齢が不運と結びつくという概念は海外にはあまりなさそうです。

もちろん、ある数字が不運と結びつく俗信であれば沢山存在します。例えば有名なものは、13。諸説あるようですが、聖書の「最後の晩餐」で13番目の席についたのが、キリストの弟子で裏切り者であるユダだったからという説。

他には、ロシアやウクライナなどでは、偶数の数のお花を女性に渡すのは失礼だそうです。なぜなら偶数の数のお花が提供されるのは、お葬式などの哀しい式典だからだそうです。

 

じゃあ、厄ってどうやって英語で説明する?

では。海外から訪れた友人に「私今年本厄なんだよねー」と言うと、「what?」と返ってきて、「あ、厄年だからお祓いにいかないと、と思って」と返そうもんなら「what?」と返ってきて、「お祓いって言うのは、災厄を心身から取り除いてもらう儀式でさー」と回答すると、「what?」と返ってきて、「あ、厄年っていうのは日本での不幸な年で、私数え年で33歳だから、、、」と返ってきて、「数え年っていうのは、、、」のように永遠にラリーが続きます。卓球ならこのラリーは誇るべきものですが、会話だともう少しスムーズに説明したいですよね。なるべくシンプルに英語で説明してみましょう。

  • 「厄年」ってなんやねん。

Yakudoshi is a Japanese superstition. In the traditional Japanese age system, 19, 33, and 37 are bad years for women and 25, 42, and 61, for men. Those years are called “Honyaku”. The years before and after each are also considered somewhat unlucky. In these years, it is said people experience some misfortune like getting sick, having an accident, or losing important stuff. 

 

「厄年は、日本の俗信で、数え年で女性だと19歳、33歳、37歳、男性だと、25歳、42歳、61歳が不幸な年と言われています。それらが本厄と呼ばれており、その年の前後も不幸になると言われているので注意してください。これらの歳に、病気になったり事故にあったり大事なものを失くしたり、災厄に遭遇すると言われています。」

厄年について説明してみましょう。上記の説明では、いつが厄年に当たり、どんな災難に遭遇すると言われているか、伝えています。

 

  • 「数え年」ってなんやねん。

Kazoedoshi is the traditional Japanese age system. In this system, people are born at the age of one, and we add one year to the age on New Year’s Day, not on one’s birthday.

 

「数え年は、日本の伝統的な年齢の数え方です。この数え方では、生まれた年を1歳と数えて、誕生日ではなく、元旦に1歳ずつ歳をとります。」

厄年だけ説明すると、数え年でなく満年齢で考えてしまうかもしれませんので、数え年という概念も説明しておきましょう。「数え年」と対になる概念は西洋にはなさそうです。

 

  • 「厄払い」ってなんやねん。

To get rid of bad luck, people in Yakudoshi often visit a Shinto shrine and take part in a purification ceremony. It usually costs about 5,000 yen to 10,000 yen. Some people instead just buy an amulet.

 

「厄年には、悪い運気を逃がすために、神社に行ってお祓いに参加します。約5,000円から10,000円の祈祷料が必要です。代わりに、お守りを買うだけの人もいます。」

厄年の説明ができたら、どのように日本人は対策しているか、説明をしてあげましょう。

(ガチで厄を払ってもらう本厄の三人)

 

  • 他に何気をつけたらいいねん。

It is said that in Yakudoshi people should avoid big life events such as marriage, moving, or changing jobs.

「厄年には、結婚や引っ越し、転職など人生の転機となるようなものは避けたほうがいいと言われています。」

厄払い以外にも、日本人が気を付けていることも例として挙げてみましょう。厄年には、何か新しい出来事は避けたほうがいいと言われていますね。

さいごに

駄洒落から生まれたこのブログ。「厄」を説明するだけでもこんなにも難しいとわかりましたね。翻訳者の皆さんは、ある1つの言葉を伝える為に、調査に調査を重ね、長年の訓練による知識・経験から巧みに言葉を変換し、何度も推敲して翻訳を生み出します。

そして、それは時に翻訳されたかどうかもわからなくなるくらい流暢なものとなります。翻訳は、それだけの多大な労力と技を要する作業なのです。

本日は、街中で少しおかしな翻訳が見つかっても馬鹿にせず「クスッ」と笑って受け止めてあげましょう。そして、洗練された技とセンス、さらに発想力で、発信者の意図を巧みに表現する翻訳者に思いを馳せましょう。

 

執筆:Donté Taka(ダンテ・タカ)、写真:金山 寛毅

 

https://www.un.org/en/events/translationday/

https://allrus.me/even-number-flowers-russian-tradition/

https://www.sbs.com.au/topics/life/culture/article/2016/06/23/what-age-reckoning

 


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