先日行われた「TechCrunch Tokyo 2017」は2011年にスタートし、7回目の開催となった。このイベントに参加したWOVN.ioチームが注目したのは、ついに日本向けにローカライズを行った2つの海外サービスです。
①slack
②Quora
この2つのセッションを紹介したいと思います。
絵文字文化の日本はslackと好相性。「送信」ボタンも追加ーSlack Co-Founder/CTO Cal Henderson氏ー
slackとはアメリカ発のビジネス向けチャットサービスで、「チャンネル」という該当するメンバーが在籍する部屋を中心に、1対1のダイレクトでもチャットが行えるコミュニケーションツールです。
11/17、ついに日本へ進出
slackは英語だし、ドル決済だし、使いにくいはずなのになぜか日本のユーザーがいた。1年間ぐらいかけてローカライズの準備をし、誇りに思えるものが完成したのでついに11/17日本語版をリリース。
なぜ日本なのか?3つの要素をHenderson氏は次のように述べた。
- 英語圏以外で一番大きな市場
- 日本はモバイルのアーリーアダプターである。LINEも職場で使うことが普通である
- チームの働き方が変わってきている
日本へのローカライズで工夫した点
一番大きな違いとして日本版は「送信」ボタンがあることです。日本人の使い方にあった形にローカライズしているという。
slackは絵文字を使えるのも特徴的だが、絵文字は日本特有の文化であり、アメリカには2009年の初めにやっと入ってきたレベルだった。しかしslackはリッチなコミュニケーションを達成すべく、英語版でもはじめから絵文字を採用。
例えばfacebookやtwitterで「いいね」や「ハート」は既にあったので、この「リアクション」をプロダクトに取り入れたかったと話しています。チェックマークを入れることでチェック済み、サムアップダウンで良いよ悪いねが一目でわかり、よりコミュニケーションがリッチになるという。
フィードバックはフラストレーションを探すこと
毎日600万人が利用するslackには様々なリクエストが来るそうだ。slackの使いやすさは、カスタマーフィードバックを真摯に受け止めてきたからこそ実現できた。良いアイディアもひどいアイディアも理解することが大切で、顧客のフラストレーションを理解することで、リッチな内容を見いだすことができるという。
Eメールはインターネットのゴキブリのようなものです
slackは世の中からEメールを無くすのか?の問いにHenderson氏はこう答えた。
「誰もが嫌いだけどメールが無くなることはない。チャットツールは今後主要になってくるのは間違いない。」
Eメールは1対1、slackはデフォルトがチャンネルというテーマ毎の部屋になる。透明性の確保や情報共有、チームとしてのまとまりなどメールでは実現でいない要素がたくさん詰まっている。例えば、1年後に「あの意思決定の経緯は?」となった時に、その文脈や背景がslackだと残っていて、振り返ることができるのである。
使っていて楽しくなくちゃ
Henderson氏の言葉で一番印象的だったのは、「便利なツールであるのはもちろんだけど、使っていて楽しくなければ意味がない」ということ。我々もチームでslackを利用しているが、チームコミュニケーションや業務効率化に助かっているのはもちろん、「ユーモアの共有・息抜き」にも一役買っていることも間違いない。確かに使っていて「楽しい」のである。
反省点としてHenderson氏は日本にはもっと早く進出するか、はじめからプロダクトの多言語化をしていればよかった、と述べた。slackチームは、ローカライズの細部にまでこだわったからこそ1年もの月日がかかったのだ。
英語版と切り分けることで使いやすさを実現 ーQuora Co-Founder/CEO Adam D’Angelo氏 ー
FBの初代CTOが立ち上げた、実名制Q&AサイトQuoraは2010年に英語版のサービスを開始。実名登録が原則で、米国のオバマ元大統領が回答したことでも話題になりました。
11/14、日本での提供開始
すでに英語、スペイン語、フランス語、イタリア語、ドイツ語、イタリア語でサービスは展開されており、2億人の月間ユニークユーザーがいるQuora。日本語と英語のコンテンツは切り分けられており、日本語で質問したら日本語の答えがもらえる仕組みだ。
なぜ日本なのか、3つの要素をD’Angelo氏は次のように述べた。
- 日本は1億人以上の大きなマーケットである
- 課題があれば解決するという献身的な態度
- 本を読む、勤勉な国民性
そして何よりも彼自身、日本が大好きだということだ。今後は中国語・韓国語も展開していくようだ。
読書をしていろんなこと学んだ、質問もした
知識を共有する動きは昔からあり、2008年に知識を共有するプラットフォームは人気が出てきたそうだ。しかしクオリティーがあまり高いとは言えなかった。「そうじゃないんだ、もっといいバージョンを作ろう」それがQuoraを開発しようと思ったきっかけになったと話すD’Angelo氏。
質のいいアンサーはずっと生き残る
ナレッジシェアリングプラットフォームとして、どんな質問でもできるQuora。同様のサービスとの差別化、重要視しているのは「クオリティ」。正確に答えることができる人を仲介するのが役割だ。クオリティを担保するために、回答に対しての投票も行っているという。アンサーというのはずっと生き残り、またいつか誰かの悩みを解決するのであろう。
Quoraは質問件数などの数字は追っていないという。数字を達成しようとするとプレッシャーがかかりすぎて品質が落ちてしまう。彼らがこだわるのはあくまでも「クオリティ」だ。日本を皮切りに、今後アジアへローカライズしていくQuoraから目が離せません。
なぜ「日本」に進出したのか?
最近日本進出を果たした両者だが、アジア進出最初の国に「日本」を選んだ理由を2つ下記にまとめてみた。
①マーケットの大きさ
日本は1億2,000万人という人口に対して、2016年時点で93%を超える人がインターネットを利用しているという非常に大きな市場です。人口だけでみると中国が最大ではあるが、インターネット普及率、そしてインターネット規制の観点を考慮すると、日本の方が参入しやすいと言えそうです。
②国民性
昔から日本人は勤勉で真面目で働きすぎてしまうこともある、と言われています。働き方を変えよう、生産性をあげようと、国を挙げて取り組んでいる真っ最中です。社員間のコミュニケーションを変えるslackも、知識欲を満たしてくれるQuoraも、日本の国民性にあったサービスと言えるかもしれません。
slackのようなビジネスチャットツールは日本でもいくつも存在するが、それらとの違いは「使っていて楽しい」かもしれない。Quoraにしても知識を共有するサービスは日本にもあるが、彼らは「質」で勝負する方針だ。
この両者の強みが日本市場でどこまで拡がりを見せるかとても楽しみです。
※TechCrunch Tokyo 2017セッションの内容より