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DX 時代には、ミッションと30年後の未来から解像度を上げていく|早稲田大学入山氏|GLOBALIZED 2020

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佐藤菜摘

Wovn Technologies株式会社(以下「WOVN」)が開催する、「テクノロジー」をテーマにした年次イベント「GLOBALIZED」。2020年は「テクノロジーで解決する、日本が直面する4つの『限界』」をテーマに7つのセッションをお届けしました。

2つ目の Keynote では、「グローバル経営戦略の教授と語るグローバライズ x DX で日本の限界を超える方法」について、早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授(以下「早稲田大学」)の入山教授にお話を伺っています。

DX やグローバル化が進む中、日本企業にはどのような変化が訪れ、どのように振る舞っていくべきなのか。外国人採用から働き方、企業のミッションにまで話が及ぶ中、大事なのは働く人の「腹落ち」だと入山教授は語ります。また企業がどうあるべきかを考えるには「30年先から考える」ことの重要性が説かれました。聞き手は WOVN の早坂が務めています。

【登壇者】


早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授
入山章栄 氏
慶應義塾大学経済学部卒業、同大学院経済学研究科修士課程修了。三菱総合研究所で、主に自動車メーカー・国内外政府機関への調査・コンサルティング業務に従事した後、2008年に米ピッツバーグ大学経営大学院よりPh.D.を取得。同年より米ニューヨーク州立大学バッファロー校ビジネススクール助教授。13年より早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール准教授。19年より現職。「Strategic Management Journal」「Journal of International Business Studies」など国際的な主要経営学術誌に論文を多数発表。主な著書は『世界の経営学者はいま何を考えているのか』(英治出版)、『ビジネススクールでは学べない 世界最先端の経営学』(日経BP社)ほか。

日本企業の時価総額が伸びない理由

早坂(WOVN):
皆さん、こんにちは。Keynote の2つ目では「グローバル経営戦略の教授と語るグローバライズ x DX で日本の限界を超える方法」と題して、早稲田大学ビジネススクール教授の入山さんにお越し頂いています。よろしくお願いします。

入山(早稲田大学):
どうぞよろしくお願いします。

0012_slide1早稲田大学大学院 早稲田大学ビジネススクール教授 入山 章栄 氏

早坂(WOVN):
昨今はコロナ禍も相まって、企業経営の不確実性が高くなる中、それでも企業は成長しなくてはならないといった状況です。その中で DX やグローバル化が叫ばれている。これらに対応する上で、重要なことはなんでしょうか。

入山(早稲田大学):
まず はDXですね 。最近声高に叫ばれていますが、ただこれはコロナに関係なく元々必要だったものです。必要かどうかの議論ではなく、論点は「なんのための DX か」という点。DX は手段であって目的ではない。つまり、大事なのは会社の意志なんです。

スタートアップはそんなことないですが、失礼な言い方をすると既存の大手や中堅の企業には意志がないところも多い。つまり「うちの会社はそもそも何がしたいんだっけ?」という状態なんです。まずはそれを認識するのが大事。その上で「したいこと」を達成するための手段としての DX を考えるということです。

次に重要なのは、グローバル化です。もちろんすべての会社がグローバル化する必要はありませんが、基本的には待ったなしの状況だと理解しています。なぜかというと、日本のマーケットが小さくなってきているから。そもそもグローバルの観点から見ると、日本の「1億人」という数字はマーケットとして小さいんです。

この感覚はもしかしたら世代間で違うかもしれません。昔は国内の1億数千人というマーケットはそれなりに大きかった。しかし世界中がで豊かになってきている昨今は、地球全体で70億人のマーケットと考えるべきなんです。そうすると日本は世界のたった1/70だけがターゲットという話になってしまう。そう考えるとメチャメチャ小さいですよね。

早坂(WOVN):
日本はそこそこのマーケットがあると言われますが、グローバルベースでは当然小さくなりますよね。

入山(早稲田大学):
平成元年には日本の会社が世界の時価総額ランキングに何社もランクインしていました。他方で、今ランクインされているのは、例えば GAFA のようなアメリカの企業や、中国企業です。なぜこうなってしまったかという最も簡単な理由は、マーケットの大きさです。アメリカは本国だけでも3億人いますし、アメリカで勝てばグローバルでも勝てる。つまり最初から10億人以上がターゲットなのです。中国も言わずもがな10億人ですよね。インドの人口も急成長していますので、これからは13億人の市場です。アフリカも全体で見れば5~6億人のマーケットです。つまり最初から数億人のマーケットを相手にビジネスをしている。だから時価総額が上がるんです。

近隣の東南アジアも、1個1個がバラバラの国と考えられているわけではありません。数年前に Grab の経営幹部に話を聞いたのですが、東南アジア全体を一つのマーケットとして捉えていました。東南アジア全体の人口はざっと6億5,000万人。市場としてはかなり大きいですよね。そう考えると日本の1億人はとてつもなく小さいわけです。

とはいえ、早坂さんの言うように、1億人というのは中途半端に大きいとも言えます。1億人いるとそれなりにビジネスが成り立ってしまう。韓国のように人口が5,000万人くらいだったら、国内マーケットが小さいので最初からグローバル展開を考えるのですが、1億人だとなんとかなってしまう。だから日本企業は時価総額が伸びないんだと理解しています。

もし時価総額を伸ばすなら、今後はもっと大きな市場を相手にしないといけない。そうするとグローバル化は必須かと思います。

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グローバル化最大の壁はやはり「言語」

早坂(WOVN):
つまり日本企業は成長のために、これからグローバル化をしないといけない。ただそうすると、採用も国内に限るわけにはいかなくなってくるんじゃないでしょうか。理屈上は、オンラインワークなら世界中のどこからでも採用できますが、企業はどう対応すればいいでしょう。

入山(早稲田大学):
WOVN さんのイベントだから言うわけじゃないんですけど、その答えは「言語」に尽きると理解してます。

私の話を例に挙げます。私は早稲田大学のビジネススクールの教授で MBA プログラムの昼のプログラムの教鞭を執っているんです。昼のプログラムって、学生の7~8割が外国人なんですよ。優秀な人たちがいっぱいいて、3~4ヵ国語を平気で話せる方がいっぱいいます。

早坂(WOVN):
へーすごい!

入山(早稲田大学):
「入山先生は何ヶ国語しゃべれるの?」と聞かれて「日英の2ヶ国語」って言ったら鼻で笑われちゃうような感じです(笑)。彼らは本当に優秀なんですね。

ここからが本題なのですが、彼らの最大の悩みは MBA を取った後、何年か日本で働きたいと考えたときに就職先が無いことなんです。その理由は簡単で、外国人が日本語をある程度話せても、日本企業の採用担当の人事が英語を全く話せないんですよ。僕はこれが日本のグローバルにおける、最大の障壁だと感じています。

早坂(WOVN):
ああ、なるほど。採用は人事がやるのに、その方が英語を話せないと。

0012_slide3Wovn Technologies株式会社 Marketing Strategy 早坂 淳

入山(早稲田大学):
事業側も同じです。所謂レガシー企業が「グローバル人材が欲しい」と口にしますがが、事業の担当者が英語を話せない。例え優秀な方が採用できたとしても、社内の人が英語を話せないので、採用された人は浮いちゃうんです。結果的に会社に馴染めずに辞めていってしまう。なので僕としては、グローバル人材採用のポイントは、言語だと理解しているんです。

最近は日本でもちょっとずつ外国人を採用できるスタートアップ会社が出てきましたが、レガシー企業にはまだまだ少ないですね。そういう現状を知っている僕からすると、学生には「日本の伝統的な企業は難しいから、スタートアップの方がいい」とアドバイスせざるを得ません。

とは言え、今申し上げたようにスタートアップの人たちは、最近どんどん外国人を採用していますよね。片言の英語で積極的にコミュニケーションしています。WOVN もそうじゃないですか?

早坂(WOVN):
そうですね。WOVN には特にエンジニアに外国人が多いのですが、日本語が話せない方もいますし、英語が苦手な日本人もたくさんいますね。それでも積極的にコミュニケーションを取れているし、仕事上もあまり支障はありません。

従業員の積極性を醸成するための3つのポイント

早坂(WOVN):
スタートアップの採用方法に話が及びましたが、スタートアップは一般的にビジョンやミッションを大事にしています。入社した後の働きがいと言いますか、「このミッションに共感をしたからここで働いている」という感覚の醸成についてはいかが思われますか? 既存企業はどうすればいいでしょうか。

入山(早稲田大学):
めちゃめちゃ重要ですよね。特に今の若い方にとってはそうだと思います。

会社が成長していたりグローバルでビジネスをやっていると、「結局この会社は何をしている会社なんだっけ」という問いに立ち戻らなくてはならない場面が出てきます。その問いに回答するためには「これからの未来にどういう世界を作りたくて、どういう価値観でいるか」が重要。これはスタートアップでも大手でも中堅企業でも関係ありません。ただ失礼ながら、日本の既存企業はこの部分は弱いと理解しています。

他方でグローバル企業は、ミッション・ビジョンをとても大事にしています。なぜかというと従業員の会社へのコミットには「腹落ち」が重要だから。人はやっぱり腹落ちしないと動かないんです。これは経営学では「センスメイキング理論」で説明できます。腹落ちしてもらうために、会社が作りたい未来に共感してもらうんです。

例えば会社の仕事の中には、もちろん雑務もあります。雑務をやっている人からすると、「この仕事が CEO の語る崇高なミッションとどう関係あるんだろう」と疑問を抱くわけです。そういう時にちゃんと仕事をしてもらうためには、「あなたが今やってることは、実はビジョンと繋がっているんだ」と腹落ちしてもらうことが重要になってくる。腹落ちをすれば、納得して人間は動くわけです。

グローバル企業と言われるところは、この「センスメイキング」を普通に仕組みとして取り入れてますね。

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早坂(WOVN):
会社が立てるビジョンは壮大で感銘を受けるのですが、それに腹落ちしたとしても、自分の領域には細かく落とし込まないと能動的に動けないんじゃないかと思うんです。そのあたりの積極性をデザインするのが難しいなと感じます。

入山(早稲田大学):
なるほど。積極性醸成のためには3つポイントがあると思います。

1つ目に、経営側からしつこく言うこと。これが日本企業は意外とできていない。日本の会社って、ビジョンを作って、社長が年に1回発表してお終いなんですよね。それではすぐに忘れるに決まっています。どんな会議でも、「今日の議題はこのビジョンに繋がっている」くらいのことを言っていいと思うんです。僕の知っている優秀な経営者は、しつこいくらいビジョンを語っています。

2点目は、「ビジョンの可視化」。早坂さんがおっしゃったように、会社のビジョンって崇高じゃないですか。先程も言いましたが、仕事というのは時に些末なこともあります。そういう時に、ビジョンと仕事の繋がりを目に見える形で示すことが大事。これは中川政七商店の中川君がやっていたのですが、樹形図を書いちゃえばいいんですよ。

早坂(WOVN):
樹形図?

入山(早稲田大学):
中川政七商店のビジョンは「日本の工芸を元気にする!」という「崇高」なもののわけです。工芸を元気にしたいならこういう事業をやらなければいけない、そのためにはこれをやらなくれはいけない……ってどんどん樹形図を書いていくんです。そうすると自分の今やっている仕事とビジョンがどう紐付くか可視化できるんです。

3点目が「行動」。ビジョンはそれ単体だと機能しません。行動しなくてはいけないんです。会社は人でできてるので、1人1人の行動で変わる。これもグローバル企業では結構やっているんですよね。けど、日本企業は意外とやっていない。

例えば、アメリカ人って他人でも「Hi」って笑って挨拶するんですよ。あれはもう習慣付いちゃってるんで、みんなやってるから自分もやらなきゃいけない。みんなやってるからカルチャーになるわけです。日本でそういうことやると気持ち悪い奴に思われるから、ずっとムスッとしていますよね(笑)。

早坂(WOVN):
(笑)

入山(早稲田大学):
つまりみんなが行動すると、段々と会社が変わってくるんです。最初に行動すべきはトップの人で、そこからどんどん変わってくる。

早坂(WOVN):
社長がオフィスを掃除してたら、みんなしますもんね。

入山(早稲田大学):
しますよね。だから、もし行動を大事にしたいんだったら CEO が最初にやるべき。CEO が「お前ら元気だせ」と言うなら、まずお前が元気を出せということです(笑)。

10年後のリーダーに必要な「決断する経験」

早坂(WOVN):
話を戻しまして、やはり DX やグローバル化は待った無しということでした。それ以外に、日本企業が10年先を見据えてやらなければいけないことは何でしょうか。色々あるとは思うのですが。

入山(早稲田大学):
ありますね、いっぱいあるんですけど(笑)。早坂さんの言う通り、10年先を考えるのは大事です。ただ私は、10年先では意味が無いですよという話しています。もっと先の30年ぐらい先を見ないといけないと思うんです。

早坂(WOVN):
30年ですか。長く感じます。

入山(早稲田大学):
なぜ30年かというと、10年先だと現状からの延長線で考えられちゃうんですよ。そうすると今手持ちの武器があって、それで10年先「何ができるか」という発想になってしまう。だけど30年先の世界は、自分たちが持ってるものが、さすがに恐らく通じないわけです。 もちろん30年先なんて正確なことは全然分かんないですよ。モワっとでいいんですけど、こうなるんじゃないか、と考えることが大事なんです。その中で、未来に向けて「これがやりたい」という意思を腹落ちしていくわけです。

さらに言うと、30年後というのは自分が会社にいないかもしれないですよね。そうすると、今の若手や自分たちの子ども世代がこの会社に入ったとき、どういう会社でいたいかと考えなければなりません。そうすると、思考をかなり飛ばさないといけないですよね。これで未来を想像するんです。

まず30年先を見る。「30年後の未来はこうなるんじゃないか」と何となくと腹落ちした後に、バックキャスト式で10年後を考えて、5年、3年と現在に近づけていく。当然どんどん解像度は上がっていきます。

早坂(WOVN):
私が所属しているWovn Technologiesの経営陣は、30年先や会社の未来を考えているのですが、我々のような下で働いている人間にとっては「30年先を考えろ」と言われても、よっぽど会社に使命感や自分の存在意義を見出していないと、そこまで考えてくれないと思うんです。じゃあどうするのかと言うと、先程入山さんがおっしゃった「しつこく言う」ことが大事になる、と話が繋がっていきますね。

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早坂(WOVN):
今回の GLOBALIZED2020は、「10年後のリーダーへ」がひとつのメッセージなんです。入山さんから、10年後に日本のリーダーになっていく人たちに対してメッセージをお願いします。

入山(早稲田大学):
3つポイントがあると思います。まず、今の時代はチャンスなんですよ。

日本は残念ながら平成の30年間、ほとんど成長していません。僕はその最大の理由は、「経路依存性」にあると思っています。

早坂(WOVN):
経路依存性?

入山(早稲田大学):
はい。会社って様々な要素が噛み合ってるじゃないですか。だからこそ、仕事がスムーズに回るわけです。逆に言えば噛み合っちゃっているから、どれか1個だけ変えようとしても変わらないんです。

ダイバーシティを例にとりましょう。ダイバーシティ自体はコロナ禍になる前からずっと必要だと言われていましたが、日本では一向に進まなかった。なぜかと言うと、ダイバーシティだけを進めようとしたからなんです。

多様性を高めたかったら、まず新卒一括採用を止めないといけない。多様な人が増えると評価制度も多様にする必要があります。バラバラの人が居るんだから、一律に評価できるわけがありませんからね。さらに言えば、働き方も多様でなければいけないかもしれません。このように、ダイバーシティを取り入れるためには会社全体を変えなくてはいけない。だからダイバーシティ1個だけ変えるなんてことはできないんです。

しかし今は、コロナで全部変えられるチャンスが来ているんです。働き方改革は今どの会社もやっていますよね。評価制度も、リモート勤務になったことで時間ベースから成果ベースに変わってきています。新卒一括採用も終身雇用もおそらくこれから変わっていく。DX も進んでいる。今は全部変えられるという、若手にとっては奇跡的なチャンスなんです。

2点目は、アフターコロナは不確実性の高い時代だということ。誰も何も分からないんです。でも、決断はしなきゃいけない。正解は無いけど決めなければいけない。つまり「決める」という能力が重要になってきます。

スタートアップの経営者は毎日が意思決定の連続だから、ひたすら決めているわけです。他方で比較的成熟した企業は、現場の社員も管理層も決める機会が少ない。僕みたいなビジネススクールの教員が言うのも何なんですけど、ビジネススクールでは「決める力」だけは養えないんです。決める能力だけは、本人が決める経験値を積むしかない。だから「決める」経験をバンバン積んで欲しいですね。

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入山(早稲田大学):
最後のポイントはやっぱり DX ですね。

「知の探索」と「知の深化」という考え方があります。「知の探索」は遠くのものを幅広くいっぱい見て、腹落ちしていくこと。他方で「知の深化」というのは、目の前のものを効率よく深掘りしていくこと。深化の部分にはどんどんデジタルを取り入れて、少しでも無駄なことを削っていく、これが DX です。

言い換えると、探索は正解が無いけど遠くを見て何をやるか決めることで、深化は磨きこんで正解を見つけていくことです。だた今の時代、深化は AI が得意な領域なんですよね。

なので、AI 等のデジタルに深化はどんどん任せて、人間はより人間でないとできない探索に時間やリソースを全部シフトさせることが重要です。

早坂(WOVN):
今の時代はチャンス、決断する経験を積む、深化は DX に任せて探索に集中する、この3点が重要ということですね。10年後のリーダーの参考になったかと思います。入山さん、本日はありがとうございました。

入山(早稲田大学):
ありがとうございました。

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